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失態である。

隣の席にガタッと座った彼は、先生が来てからも私に話しかけて来た。

確かに長くてつまらなそうな話なので良いが、少し面倒だ。


「あ、俺猪瀬(いのせ) (あずさ)。あずさって呼んでよ?

ほい、改めましてよろしくっ」


そう言って輝く笑顔を見せながら手を差し出す。

不思議な顔をしたまま梓の手を見つめていると、


「握手だよ、握手っ! ほら!」


あ、握手か、とわかったとき、私の手はすでに梓に掴まれ引き寄せられて手を握られていた。

びっくりして手を全力で引っ込めたが、そんな私の態度を気にした様子もなかった。


彼の声は大きすぎてクラスにいるとどこでなにをしているかわかる。

そしてわかったことだが、梓は初めて同じクラスになった人には全員に握手を求める習慣のようなものがあるようだ。

なんと調子の良い人なのか、そう思ってなるべく関わらないようにしようと思った。


やっぱり私は新しいクラスでも女子からタチの悪いいじめを受け始めた。

まあこういうのも仕方ないしと割り切って素直に従った。

決して涙は見せないようにしている。

なぜなら涙は彼女らをさらに煽ってしまうから。


今日は女子十人に缶ジュースとメロンパンを買ってくるよう命令された。

メロンパンは大人気なのですぐに売り切れる。

なのでなるべく急いで行った、のだが、もう『売り切れ』という看板が出ている。

前の授業も長引いたし仕方ないのでは……と思うがそれで許してくれる人たちではない。

いちおう希望されたグレープソーダを両腕に抱えて来た道を通って戻り始めた。


走って行かないと怒られるが炭酸なので振ってしまうと噴いてしまうので小走り。

なるべく足をすすすっと動かして忍者のように動く。

角に来たとき、私は誰かと正面衝突してしまった。

その拍子に眼鏡と缶ジュースを落としてしまった。


「あっすみません……」

「ごめっ! って葵ちゃ……!?」


急いで眼鏡をかけ直し、確実に開けたら噴き出すようになってしまった缶ジュースをまた一生懸命拾って腕の中に収める。

そのうち、遠くに吹っ飛んで行ってしまった1本をぶつかった人が拾ってくれた。


「ありがとうございます……あれ、梓さんではないですか」


そのぶつかった人は梓だった。


「今さら? ……で、なんでそんなに缶ジュース持ってんの」

「クラスの人に買って来いと命令されて……」

「もしかしてもしかして、いじめ、られてる?」

「ああ、はいそうですね。別に嫌じゃないんで……」

「俺がそいつらに言ってやるからそいつらいる場所教えろ」

「嫌じゃないんで大丈夫ですって!」

「ううん、葵ちゃん今我慢してる顔してる気がする」


それ本当に梓の気なんだけどな、なんて言う間もなく、缶を抱えた私の腕を掴んで私たちの教室へ向かった。


「なんで私のためにそんなことするんですか、意味がわかりません!」


普通尋ねるであろうことを素直に尋ねてみたら、困ったような顔をして、


「さっき見た君の素顔に惹かれちゃった、っていうのと、ちょっと君に興味が湧いて来たから、かな」

「す、がお……?」

「うん、さっき眼鏡外れたとき見えたよ……って見ちゃいけなかった?

すごい美人なのになんで隠してるの?」


いじめなんてどうでも良い。

私の素顔を見られてしまったことのほうが大問題である。


教室に着いたとき、そこに彼女らの姿はなかった。

きっと空き教室で酒を飲んだりしているのだろう。

どこにいるんだという問いには答えず、缶ジュースを机に置いた私は彼の腕を逆に掴んで校舎裏に引っ張ってきた。

そこで抵抗すればすぐに解けたはずだがそれをしなかった。


「私の顔……見ちゃったのですか……?」

「見たよ? めっちゃ美女だったね、眼鏡外せば良いじゃん。

俺の知ってる中ではダントツで綺麗な顔なんだけど」


その薄っぺらい褒め言葉なんてどうでも良い。

こんな軽そうな人に素顔を見られてしまうなんて。


私、人生最大の失態だった。

8/24

ルビに大きな間違いがありましたので修正いたしました。

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