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素である。

とりあえず梓の後ろについて自転車を漕ぐ。

前の梓に大声で尋ねた。


「こんな初夏にイルミネーションなんてやっているのですか?」

「ん、まーね。これから電車乗るけど、Suicaみたいの持ってる?」

「はい、パスケースに入っています」

「じゃあとにかく着いてきてよ、どこかは秘密」


その形良い唇に人差し指を当ててにっと笑う。

そんな言い方されたら何も言えないではないか。


駅の自転車置き場に停めて、十五分程度電車に揺られた。

この時間は人がぜんぜんおらず、危険もなくただ座っているだけだった。

梓は駅で買ったオレンジジュースとチョコレートを食べていたが、勧められた私は遠慮しておいた。

若干酔ったものの、なにも問題はなく目的の駅に到着した。


「『TOKYOへようこそ』……」


ここはその大きな看板からもわかるように東京である。

横を過ぎるおじさまもおしゃれにハットを着こなしていて、エプロン姿のおばちゃんはおろか、ジャージ姿のおばさまもいなかった。

さすが日本の中心地、東京。


今の時刻は午後六時、やっと夕日が見える時間だ。

イルミネーションの時刻を聞こうとしたが、梓は私と手を強引に繋いで東京のおしゃれなカフェに入った。

手渡されたメニューを見ると、『ホットココア 六五〇円』や『フレンチトースト 一〇〇〇円』という謎の数字が並ぶ。


「もう決まった? なんでも良いよ、おごるし」

「いえ私は大丈夫です……あの、高いんで……」

「だから気にしないでって! 俺普段金使わねーからあるし、さ」


こんなやり取りが少し続いたが、先に折れたのは私だった。

安めの安めのと探し、これ……と指差す。


「キャラメルソース入りホットミルク一つ」


ただの牛乳ではないのかと思うのだがまさかの五百円。

私のような庶民には怖くて仕方ないが、梓にとって別になんてことなさそう。


梓はオレンジヨーグルトドリンクをストローで吸い続けている。


「オレンジ……好きなのですか」

「うん、大好きなんだよね。葵ちゃんは好きな食べ物なんなの?」

「私……は、むき甘栗と厚焼き玉子ですかね……」

「ぶっ」


彼は堪えようとしたもののすぐに口を押さえて吹き出す。

私に背を向けたまま顔を必死に隠しているが、肩が不規則に揺れているので明らかに笑っているのが伝わる。


「……なにか変なことでも言いましたか」

「いや変なことは言ってないけど……俺の前でそこまで正直で自分を飾らない女の子見るのって初めてだなって思って……あははっ」


声が震えるだけでは止まらず、ついに声を出して笑った。

その表情は本当に心の底から笑っているようだ。

なぜ笑っているのかわからず、梓の顔を凝視する。

その視線に気付いたのか、未だひぃひぃ言いつつも深呼吸して息を整えた。


「あーとね、いつも俺の前だと態度変える女の子ってのもいんのよ。

素は出さずに完璧な女の子でい続ける子がね……。

まあ俺から見ればばればれなんだけど、葵ちゃんは素で接してくれていたから」


そう言ってまた笑い出したが、どこか寂しそうに見えた。

きっといつでも作られた人格と話すのも完全に心を開いて……というわけにはいかないから辛いのかな、そう考えた。

私にはない経験だと思った。


カフェを出てすぐ隣辺りのオムライス店でデミグラスソースオムライスを食べた。

上には梓のだけ『LOVE』というメッセージがケチャップで記されていたが、本人はなにも触れずにがつがつ食べていた。


すぐに夕食を済ませて店を出ると、午後八時近くになって闇が深くなっていた。

それを確認すると梓は私についてきてと言って走り出したが途中からはぐれそうになったこともあってか腕を掴まれた。


「イルミネーション、スタートするよ……」

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