とある事情である。
私がまだ服を決め兼ねているというのに、この部屋の外から着替え終わって私を待つ梓の気配を感じて焦る。
「すみません、決められず……」
「えー? 大丈夫だよ、ゆっくりで。俺もまだだし」
絶対嘘だ。
待っていない風を装って本当は待ってくれているはずだ。
なぜこのいけめんさんは中身までそこらへんの男子とは違うのだろうか。
私はこの多すぎる服を一枚一枚見ていたが、また一つ惹かれるものがあった。
白にブラックとブラウンで英文が入っている半袖Tシャツ。
それに黒のロングスカートと赤チェックシャツを腰に巻き、髪はふわっと上の方にお団子を作った。
白いレースのリボンのゴムで結び、ブラウンのウェッジソールサンダルを合わせる。
おお……自分に感動しながら、梓の前に出る。
「ど、どうですか……?」
「かなりセンスが良くなってるね、可愛いと思うよ。
んじゃ、俺がさらに可愛くなるようにメイクするから」
「梓さん、メイクなんて……」
「俺たぶんそこらの女子よりもメイク上手いよ? 楓に仕込まれたし」
でも未だに眼鏡を外して外を出歩くのは怖い。
まだ彼には誘拐のせいで素顔を見せるのが怖いなんて言っていない。
手際良くアイメイク、チーク、リップなどを施していく。
薄いオレンジやベージュで統一されていて、服にぴったりだった。
「ほい、我ながらかんっぺき!」
「あの……眼鏡をかけてはいけませんか?」
「えーあのいつもかけてるやつ?」
こくりとうなずくと、うーん……と唸られた。
「あれなきゃ前見えない? 視力いくつ?」
一番困る質問だ、実はあれはだてめがね。
視力は二.〇とかなり良く、学校での視力検査ではごまかしてきた。
どうにかして眼鏡を、と考えたものの、私なんかの頭脳ではだめだった。
胸に手を当てて、息を吸い込む。
「あの、実は私の眼鏡……だてめがねなんです!」
「えぇ!? なんでいつもかけてんの!」
「小さな頃……ということがあって、それ以来素顔を見られないようにと」
「そ、っか。んじゃあ眼鏡かけていーよ」
自分の横にあるいつもの眼鏡を取ろうと手を伸ばしたが、だめ、と言われて私は動くのをやめた。
梓を見ると、その手には眼鏡。
だがいつものとは大違いで、木で出来たおしゃれなだてめがね。
「これなら大丈夫」
「でもこれでは顔が見えてしまいます……」
「ううん、いつもの地味な雰囲気を知っている人にはばれないくらい可愛くなってるから絶対に気付かれないと思うよ。
あともしなんかあったら助けるから……呼べよ!」
にかっと白い歯を見せて笑う梓は頼もしく見え、素直になった。
じゃあ行こうか、と言ってはみたが、行き先なんて決めていない。
「どっか行きたいところある?」
いきなり聞かれても、いや別にとしか言えない。
しばし悩んだ後、梓は手をパチンと叩いた。
「どこでも良いんだったら……」
ちらっと私を見て、微笑む。
「イルミネーション、見に行かね?」




