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意地悪である。

本選は一ヶ月後。

その前にテストという怪獣が待っている。

実は私は梓にもらった数学ノートを毎日持ち歩いている。

彼に見つかると厄介なので、図書室に行って数学ノート……私専用参考書と自分のノートを開いて練習問題を解きまくる。

それにしてもこの問題……私が苦手なところばかりだ。


「素晴らしすぎる私専用の参考書だ、認めたくないけど!」


ここまで私の心を掴む参考書は初めてで、悔しい。

だが利用できるものはしたいので利用は続ける。


授業中、彼の方をちらっと見ると私のノートを良く見ていることに気が付く。

たぶんこのときに苦手なところをチェックされているのだろう。

私の視線に気が付いた梓は顔を見てにこっと笑う。

なんて人の良さそうな笑み。困る。


帰ろうとバッグを開くと、その中にメモが入っていた。

真っ白な紙は学校で配られるなにかの切れ端っぽい。

そこには、やっぱりあの綺麗な字でこう書かれていた。


『今日楓がまた打ち合わせしたいって言ってるんだけど。

俺はどっか行ってるから安心して。どう? 無理だったら正門で待ってる俺に言って』


嫌だから無理だと言いたいところだが、無理だったら正門で待ってる俺に言ってって……またあの家で温もりを感じてしまうのと梓と話してしまうのどちらが良いのか。

迷った末に出した結論はひどいものだった。


正門を見ると、門によっかかってスマホをいじって音楽を聴く梓がいた。

他学年の人にも声をかけられているが、笑顔ながらもはっきり断っている。

私が近くに来るまで気が付かなかったようだが、門をくぐろうとしたときに気付いた彼は笑って手を振る。


「葵ちゃん! ……もしかして、無理?」

「……さよなら」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


彼に目を向けないまま早歩きで帰ろうとする私に驚きながらも腕を伸ばして引き止められる。

だがそんなことで動じてはまた梓のペースに巻き込まれてしまうと思い、まるで見えていないかのように振舞って家路についた。

後ろを向くと、ヘッドホンを外してスマホをポケットに入れながら走ってくる梓が近くに迫ってきていた。

ここで走っても逃げられるわけもないので細い道を通って巻こうとする。


がしゃん……


その鈍い何かが割れる音に合わせて、


「あっ!?」


梓のショックそうな声である。

つい振り向くと、スマホを落として口を開けたまま固まる梓が泣きそうになっていた。


「これやっと自分の小遣い貯めて買ったやつなのに……。

うわ、画面がっつり割れてるわ」


急いで拾ったスマホの砂を手で払い、画面を凝視する。


「ねえ見てこれ、ひどくない?」


私の目の前にいきなり出されたのは先ほど落とされたスマホ。

画面が見えないほどばらばらに割れていて、ショックなのはわかった。


「ひどくないー? ねえ、葵ちゃん」


泣きそうな声で私に訴えかける。


「あなたが勝手に落としたんでしょ」


そう的確なつっこみをつぶやいたとき、梓の目が光った。

思えば少し声が大きくなってしまったかも……!


「ま、葵ちゃんと話せるならスマホに感謝しなきゃだな」


何言ってんのと言いそうになって堪える。

また同じことを繰り返すのだけはごめんだ。


何も言わずに踵を返して今度こそ家に帰る。

下を向いてゆっくり歩いていたが、ふと前に気配を感じて顔を上げる。


すぐ近くに、自転車の大きな車輪が見えた。


「うわ……」


何もできないまま自転車と事故に遭うのを待つ。

そのとき梓が、


「あぶねぇ……っ!」


そう叫けんだかと思うと私に抱きつく感じで後ろに倒される。

ふらついた私の腰をしっかり抱え、後ろを見ている。


「大丈夫? どうにか守ってやれたけど、気をつけてくれよ」

「ごめんなさ……ありがと……う……ございます……」

「うん、無事なら俺は幸せだから、さ。

……いやちょっと待てよ、やっぱ今日俺の家来てくれるなら良いよ」

「それはっ」

「えー俺命がけで葵ちゃんのこと助けたのになぁ」


そんな意地の悪いことを!

今すぐにでも掴みかかりたいが、助けてあげたと言われると逆らえない。

無言になってしまった私を見てにやりとした梓は、


「もちろん、来るよな?」


と顔を覗きながら囁く。


つい彼に背中を向けて帰ろうとした私のバッグを掴み、身動きが取れなくなる。


「ちょっと離してくだ……っ」

「来る、よな?」


そんな笑顔で言うなんて……ずるい。

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