変化である。
歓声がまだ聞こえる中、私は舞台裏に下がった。
小さく観客席から、
「もっと見たかったなぁ」
「かなりRIHOちゃんの世界に引き込まれちゃったよ!」
という名残惜しそうな声とある種の驚きの声が聞こえ、初めてこのオーディションを受けて良かったという嬉しさと満足感を感じた。
その後私は裏で男性部門の発表も見ていた。
《エントリーナンバー二十六番、浅海さん、十六歳。どうぞ!》
あずさという名前から あさ だけ取り、なんとなくつけた浅海という名前。
少し本名のようにしたところがポイントよ! ……と楓は言う。
コツコツと私と同じ靴の音が響く。
それに違和感をやっと感じて不思議そうに首をかしげる観客。
照明がパッと点くと、観客はざわめく。
「……え!?」
ステージ上にはふんわりとしたスカートにフリルがたくさんのブラウス、それに丸みを帯びたいちご柄のアンブレラ、白い靴下に赤い靴。
いわゆるロリータファッションの姿の梓がそこにいた。
茶髪の髪をツインテールにしてリボンで束ねているその姿は女の子そのものだった。
まあ普通に可愛い……というのは置いといて、
「なんで梓さんは女装なんですか?」
「葵ちゃんをびっくりさせたくて秘密にしてたの。どう、ちょっと面白いでしょ。
実際あいつ顔は可愛いと思うし、スタイル的にも大丈夫だったから」
「は、はあ……」
ぜんぜん意味はわからなかったが、雰囲気で読み取ったことによるとサプライズで女装姿を見せて観客の印象に残す作戦らしい。
確かに観客も私も驚いて忘れないであろう。
「ここからが本当のサプライズだよ」
指をさしてにやりとする楓の言葉を聞いてステージをじっと見る。
すると可愛いポーズを取っていた梓は、可愛らしい裏声で叫んだ。
「わん、つー、すりー!」
途端にぷしゅーという音とともにステージ上が煙で満たされる。
梓は煙に紛れて見えなくなった。
煙がふと消えていき、梓が再び現れた。
そこには可愛い女の子の姿はなく、おしゃれにセットした髪型とストライプのシャツに白いパンツとスニーカーを合わせたいつも通りの梓。
つまり女の子から男に戻っていたのだ。
「あれどうやったんですか」
「ん、早着替えってやつ。ウィッグ外して服脱いでいろいろと。
こつ掴めばぜんぜん簡単な技だから!」
「これが本当のサプライズ……?」
楓はこくんとうなずき、先ほどより悪そうなにやり顔を見せた。
ステージで美少女からイケメンに変化した梓に、皆ぽかんとした間抜けな顔をする。
「すごいかっこ良いじゃない……!」
手を祈りのポーズにして見とれる女性もたくさんいた。
そんな女性に対しパチンとウインクしたり笑顔を見せる梓に女性たちは虜に。
ああいうのが彼の上手いところだ。
裏に戻って来た梓は普段通りに私に笑顔で、
「おつかれ! 葵ちゃんのとき、お客さんたちがかなり引き込まれてたし、印象に残ってたっぽかったから、いけるんじゃない?
一緒に目指せ本戦!」
と声をかけてくれたが、無視すると決めた私はその決め事を貫いた。
聞こえていなかったかのように顔を背けて無視。
さすがに居心地が悪く感じ、お手洗い行って来ますと言って行きたくもないお手洗いに行った。
なんでここまで避けているのかはわからない。
だが彼には言いたくないと思った。




