いけめんさんである。
高校生になって二年目に迎えた春。
つらいいじめに一年間も耐えたのかと思うと1年間というものはあっという間だが、あのわくわくさせるような雰囲気の中行われた入学式から1年と思うと1年間は長い。
桜は舞わず、舞うのは砂ばかりの校庭が視界に入る。
クラス替えの紙を見に行くが、私は百六十五センチメートルという身長を持っているのですぐ見える。
「今年は二年三組か……」
「うわっ二年三組だ!」
私が呟いたのと同時に大きな男性の声が聞こえた。
ん? そう言って顔を見合わせると、私よりも背がうんと高く目が大きくて鼻が高い男性で、驚いたような顔をしていた。
これがいわゆる『いけめん』という種族なのだろう。
私は彼の綺麗な顔を凝視していた。
すると少し怪訝そうな表情になって首を傾げられた。
「名前、なんていうの?」
「和泉葵……」
「葵ちゃんか、可愛い名前だね。これからよろしく!」
「は、はぁ……」
一気に話されて頭が混乱し、よろしくを返すなんてできない。
いけめんさんと話しているわけだし、さっき可愛い名前なんて言われてしまったものだからさらに人見知りが悪化する。
私があうあう行っている間に彼の周りには大きな男子や派手で美人の女子。
いけめんさんの背のおかげでどこにいるかはわかるが、私が入っていくなんて意味わからない。
人に名前を聞くだけで名乗らないあたりが頭が悪そうだ。
結局なにも言わないまま足早に新クラスに向かった。
名前の順の席である一番前の席に座った。
そして春休み中の宿題を机の中に入れて先生をひたすら待つ。
別に本を読むわけでもなくただ背筋を伸ばして一点を見つめているから怖いらしいが、座っているのは人のためではないので気にしない。
隣の席に誰も来ないまま予鈴が鳴った。
あと5分だというのに来ないということは休みだろうか……そう考えたとき。
廊下から誰かがドタバタと走ってくる音が聞こえた。
そしてバタン! と扉が開けられて、
「っぶねぇ……! 遅刻ぎりぎり〜」
と危機感を感じないような言い方で入ってきたのは、朝のいけめんさんだった。
遅刻ぎりぎりに来る人が嫌いな私は彼を睨んでいたが、
「葵ちゃんじゃん? あ、俺隣だわ」
睨んでいることにも気が付かないように言われてしまい、またたじろいでしまった。
隣の席だとは……なんとも性格の合わなそうないけめんさんだった。