孤独感である。
「ただいま〜」
そう部屋の中に向かって呼びかけるも、返答はなし。
真っ暗なリビングの電気を点けて入り口付近にバッグを置く。
以前はここにバッグや帽子を掛ける棒があったのだが、お兄ちゃんが彼女と同棲している家に勝手に持って行ってしまったようだ。
この部屋の中にはテレビ、テーブルぐらいしか家具という家具もなく、他の部屋に私の勉強机やキッチンがあるだけだ。
ちょっと広めのマンションの一室に住んでるとはいえ、ここでほとんどの時間を私1人で過ごすので持て余す。
でも広いのに越したことはないから良い。
……今までは広くて良いと思っていたが、私はどうしたんだ。
この広い空間の中にぽつんと一人きり。
うっすら耳鳴りのような音が聞こえるが、それは騒がしい人の声だと気付く。
びくっとして周りを見渡すも誰もおらず、たぶん人の声のするところにいたから耳に残ってしまったのだろう。
「ただいま!」
もう一度この一人きりの部屋に向かって叫ぶ。
なぜかこの声が震え始めていた。
視界はぼやけ、頬がどんどん濡れていく。
顎まで伝った水は床に零れ落ちそうになったが急いで手の甲で拭う。
それから止めどなく流れてくる水はハンカチを1枚だめにしたのでお風呂に入ってしまおうと思った。
やっと気が付いた、今着ているのは楓のワンピース。
さらに自己主張する涙を抑え込み、綺麗に畳んでお風呂場の前に置いておいた。
「……うぅ、うぇっ。ひっく……」
どうせ浴槽に満たしたお湯に私の涙を配合してもわからない。
安心して大量の涙をひどい嗚咽とともに排出する。
自分の体に手を巻き付け抱えるようにして右手でゆっくりとんとんしたり腰のくびれの辺りを優しくさする。
小さい頃泣いている私にお母さんがしてくれたことだった。
ひとしきり泣き、落ち着いた頃に目を冷水に浸ける。
明日腫れて泣いたことがばれないようにするためだ。
だが結局は腫れてしまうのだ……が、私のことをそんなに気にかける人もいないので別に腫れても構わない。
未だ食事を済ませていない腹は正直で、今度は腹の泣き声が聞こえる。
聞いたのは私だけだがどこか恥ずかしいので焦って風呂から上がっていつものジャージ、おさげ、眼鏡という姿に戻り、冷凍のラザニアを解凍して食べる。
「いただきます」
一応そうつぶやくのが癖になっている。
普段は料理も作るが、今日は疲れたので手抜きで済ませた。
やり残した今日の自分で定めたノルマを達成するために疲れていないと暗示してシャーペンの芯を出して握る。
英語をすらすら書くのは楽しいがやっぱり睡魔は私を襲う。
最近いろいろな変化が訪れて疲れが半端ではなかった。
頑張って意識を留めていたが、気が付けばもう夢の世界へ引きずりこまれていた。
こんなにも孤独感を感じながら過ごす時というのは久々だ。
その寂しさに心が音を上げて涙が復活してくる。
もう自分の服なので袖に顔を埋めて再び泣く。
これを繰り返しているうちに朝を迎え、ベランダでは鳥たちが私を起こしに来て、隣のおばさんは布団干しという仕事に取り組んでいた。




