ファッションである。
梓がローズピーチティーを淹れるこぽこぽという音が聞こえる。
私はつい最近も座った椅子に座り、楓に二回目のメイクを施してもらっている。
基本藍色、そこにきらきらした金とか赤とかを入れて宇宙を表現するという。
リップは透明に近いピンクがかったものを塗り、グロスでつやを出す。
顔に楓のセンスできらきらした粉を散らす。
楓は満足気に額の汗を拭い、鏡を取り出す。
「これでオーディションに出てもらおうかな、って考えてる。
なにか意見とかアドバイスとかあったら……ていうかちょっとした希望みたいな、こんなメイクしてみたいっていうのでも言ってね」
「いえ! こんな服にあったメイクが出来るなんてプロみたいです」
私が意見なんて出来るわけもなく、というのもあるし、実際に文句なんてありえないくらい完璧だった。
私が褒めちぎったことに対して謙遜しつつも照れる楓が突然開いたドアに挟まれた。
「ほい、頼まれたピーチティー。飲んでね。
……楓はどこ行った?」
ドアの陰から恨めし気に梓を睨む楓のほうをじっと見てそっと指をさす。
にこっとした顔のまま不思議そうに私の指のさす方向を向くと、たちまちその顔は青ざめていき笑顔は消え去った。
「ご、ごめんなさ」
「おい梓。普通さ、女の顔に怪我させるか?
あんたももう高校生じゃんかよ、気を付けろよ」
「はい、すみません」
はあーため息をつきながら前の方に流れていた髪をばさっと後ろに戻す。
綺麗な髪は天使の輪が見えていたが、小さく舌打ちをした顔は怖かった。
私が怯えながら楓を見ていてしまったのか、私を目で捉えると、
「ごめんね、でもこれは梓が悪いしこんなこと良くあるから心配しないで。
まあ梓もピーチティー淹れてリビングで待ってて、私たちもそこ行ってテレビ見ながら作戦会議するから」
はい、そう言ってすぐに下の階に降りていった。
そこに散らばってしまったメイク道具を片付け、持って来てもらったピーチティーを持って私たちもリビングに入る。
ここには桃と紅茶の良い香りが漂っていた。
楓は私に手を向けて言った。
「この格好とメイクでオーディション出るつもり。
どう、なんか男から見ての意見とかあったりする?」
「んー……髪型はどうするつもりなの」
「かなり髪質良いから横前に流してストレートそのまんま。
片側に寄せた方が大人っぽさが出ると思うんだよね。
んで前髪を左分けして金色の星ピンを2つつける」
「ちょっと待てよ、なんかそれ改善出来る気がするぞ」
手で楓を制したまま、私……特に頭部を見つめて何か考え込んでいる。
そんなハイレベルなおしゃれ話についていけない私はとりあえず座って固まる。
あ、わかった。
そう手を叩いて梓は言った。
「わかった、髪数十本の束にそのワンピースと同じような生地の白いラメ入りシースルーの布を巻きつけるんだ!
それを左右良い感じにつければもっと幻想的になるんじゃないか」
布を髪の束に巻きつける……?
ぜんぜん完成図が想像できないがこの姉弟の間では共有できているようで、
「確かにそうだね、さすが私の弟。かなり考えられるようになったな。
その意見すごく良いから採用する、ちょっと用意してくる!」
ばたばたと生地を探して自室でインターネットを使って調べているようだ。
「ファッションにも詳しいんですね」
「まあ小さい頃から楓に教えこまされてたから。
厳しくて厳しくて気が付けば楓とファッション関係で討論できるようになってた」
苦笑した梓だが、本当にわからない私にとってはすごいことだ。
私も……二人についていけるようにファッションのお勉強もしなきゃ。
こんなことを思ったのは生まれて初めてかもしれない。




