気遣いである。
椅子に押し付けられるようにして座らされたまま、梓はスポンジに再びボディソープを付けてもしゅもしゅする。
にやにやしながら私の背中をごしごし洗っていくが、力があるからか痛い。
「痛い……」
そうつぶやいて梓の方をちらっと見ると、
「ごめん。でも今のめっちゃグッときたわ」
「は!?」
つい謝っていると思えない言葉に怒りというよりも驚きの方がこみ上げてくる。
私の背中を洗っていったが、彼は素早く動いたかと思うと私の(楓の)水着の後ろにあったひもに手をかけた。
なにを企んでいるのかわかり、とにかく体に手を巻き付けて隠す。
どうにかほどかれる寸前で防ぐことができた。
もうやめてよ、言いかけた私は梓の顔を見て言うのをためらった。
「ごめん、もっと葵ちゃんのこと気遣ってあげなきゃだめだ……」
赤くしつつも唇を噛み、まるで自分の愚かさを感じているような顔。
本当に私のことを考えての後悔だとわかるから、もう責められない。
「そういうのずるいですよ」
私のつぶやきはどうやら彼には聞こえなかったようだ。
このつぶやきを聞かれ、今の真っ赤になった顔を見られたら、梓にどう言い訳して良いかわからなかったから少しほっとした。
私の背中を素直にシャワーの温かいお湯で流してくれた梓は、自分のバスタオルをびしゃびしゃになった私に貸してくれた。
梓さんはどうするんですか? と尋ねると、また取ってくれる? と頼まれた。
ずっとびしょ濡れの梓を待たせているわけにはいかないので急いで拭いて出ようとすると、
「あ、遅くなってごめんね」
「え?」
「水着可愛いじゃん。スタイル良いし」
「あ、ありがとうございます……」
さらっと褒められて焦った。
振り返らなかったのは急ぎたいから、ではなく、この顔を見られたくないから。
出ると、ちょうどそのタイミングで楓が洗面所に来た。
梓のタオルで体全体を拭く私を見て、
「ごめん、腹痛すごくって……っていうのは嘘で、本当は梓の恋を応援したかったんだよね。
なんか嫌なことされちゃったのならごめんなさい」
すごく申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げる楓に、全然大丈夫ですと言った。
手をぶんぶんと振って否定すると、頭を上げてありがとと言われた。
優しい声でのありがと、はなぜか嬉しくなった。
梓には、楓がバスタオルを渡した。
聞いていると楓は梓に、
「女の子にそんなことしちゃだめでしょ!?」
と怒っていたので、
「いやいや、全然大丈夫ですから!」
ついつい梓をかばってしまった。
でも実際、ひもを解く前に私を気遣ってやめてくれたのだから梓はそんなに、ではあるが悪い人ではないと思う。
少しだけ見方が変わった出来事だった。




