私は魔王を倒して帰って来たばっかり何ですけど!諦めない妹に困っています。(呆れ)
前作の『~多くは望みません、寝かせて下さい(怒)』の続編です。
前作が中途半端な所で終わったんですが、今回も終わっているとは言い切れません。
ごめんなさい。続くかも?
勇者一行の一員として魔王を倒し、私達が生まれるずっと前から延べ50年も前から続いた戦争に勝利し、昨日の夜遅くに私は祖国へと帰還致しました。
そして翌日、8年振りの自宅での就寝中、家族(妹)に命を狙われました。騒ぎを聞き付けて父と祖父が駆け付けて下さいました。
以上、前回の粗筋でございます。
床に私が押さえ付けた妹、壁際に足を上にして倒れている父、寝台に刺さった短剣。
祖父は周囲を見回して、すぐに状況を把握した様ですが、私が首を振るとその場では追求しないで下さるようです。
私と、家族との確執は祖父も知っていますし。
「お久しぶりでございます、お爺様、再び生きてお会いする事が出来てうれしゅうございます。」
「うむ、よくぞ生きて戻った、そなたなら魔王を討ち果たすと信じておったが、老い先短いワシの命ある内に再び顔が見れるとは思わなんだ、本当に良く戻った」
私の有様を見て、流石に『無事』という言葉は飲み込んだようですが、心のそこから私の生還を喜んでくれる、祖父の言葉に私も涙が出そうです。
出発するとき私は17歳祖父は70近くでした、次に戻れるのは何時になるかなど誰にもわかりませんでした、私が戦場で命を落とさない保証もありませんでした。
それがたった8年で戻れるとは、本当に仲間達には感謝しなければいけませんね。
私に剣や魔術を教えて下さった、今は亡き叔父上達にもです。
祖父には五人の息子がいましたが、末の父以外全て魔王軍との戦いで命を落としました。
お爺様も右足が、義足です。
魔王のトドメこそ、勇者に譲りましたが、叔父達の仇である毒牙将ガーラス、単眼鬼デノス、それと叔父様が命と引き換えに右目を潰した黒蛇竜、全て私が討ち取りました。
「ところで、お前は何故屋根裏部屋で寝ておったのだ。」
「私の部屋は、子供部屋になっていたんです、幸い寝台は処分されていませんでしたから。」
8年の間に弟に長男が生まれていました、おおかた私の事は生きて帰って来るとは思わなかったのでしょう。
黴臭かったですが、8年の間は野営続きで、最悪毛布一枚で地面で休んだ頃よりは、よっぽどましでした。
襲撃を受けて、安眠を妨害される迄は。
まったく、うっかり戦場での癖が出て反射的に首をねじ切ったら……どうなっていたでしょう?チラリと誘惑が……
……いえ、止めましょう他の三人がいますから、糾弾大会で大して状況は変わりませんね。
私達10人の仲間達は、皆別な世界からの転生者です。
魔族との戦いに苦しめられる人々の為に、母なる女神が“与えて”くれた、とされるのが私達『祝福の花』でしたが、両親にはエルフの取り替え子と、同じ様な者と理解された様です。
『妻の腹の中に紛れ込んで来た、妹の姿を盗み取った偽物。』
神託が下った直後、父にそう罵られました。
前世でも世界全土を巻き込んだ戦争の真っ只中でしたので、仲間の中には戦術とか戦略を身につけている人もいました、勇者がそうです。
他にも賢者と呼ばれて前世の知識や技術、武術を皆に教えてくれた人もいますし、フェバードの王子は後方補給の名人です、彼のお陰で連合国軍の全体に必要な場所へ、人員と物資が行き渡りました。
農家の人が、自分の作った農作物を自国の兵士に食べてもらいたい、これはまあただの人情です。
ですが、自国で提供した物資を自国の兵士だけに優先的に回してくれ、これは聞けない話です。
彼がいなければ、中継集積地点を定期的に襲撃して来る各国官僚と、魔族のお陰で前線の補給線は目茶苦茶になっていたことでしょう。
比べれば私は前世では何の取り柄もありませんでした、何故選ばれたのでしょうか?
ポーロニアのレジスタンスで、侵略された祖国を奪還する為に戦っていましたが、やっていたのは素人に毛の生えた程度のゲリラ戦位のものでした、まあこんなことを言ってもこちら側の方達は何の事だかわかりませんね。
こちら側に生まれてから、走れば馬に勝ち、エルフを凌ぐ魔力や獣人族に勝つ様な腕力に恵まれて、妹にズルイズルイと詰られますが、女に生まれた身の上で、こんな縁談に差し支えそうな力の、何処がうらやましいのやら。
「そうよ!まだ間に合うわ!」
放って置いた妹が突然声を上げました。何が間に合うのでしょうか?
お爺様に、このまま放置継続でよろしいでしょうか?と視線で問い掛けて、同意を頂いたのですが、お父様が問い掛けてしまいました。余計な事を。
「王太子様との縁談よ、お断りさせて頂いたのは、戦場では結婚など考える心の余裕が無かったからで、帰還して落ち着いたら、前向きに考える事が出来るようになりました、と言えば良いのよ!」
まぁっ、息継ぎ無しでよく……ではなくて、この子はまだそんな事が出来ると思っているの?
「こんながさつな娘を、王太子妃にだと?」
がさつ……は否定しませんが、相変わらず私の家族は私に栄達のお話が来ると、何が何でも受けさせまいと必死になりますね。
今回はそれで良いのですが。
「それが叶うならば、お父様は次期国王の義理の父です!」
「私が岳父……」
あら、心が揺らぎましたか?
「大丈夫ですお父様、このお……姉は王太子様に嫁ぎたくないそうですから、私が身代わりに参りましょう、双子の姉妹ですもの気付かれませんわ。」
この女と言おうとしましたね、それはともかく、入れ代わるなんて無理に決まっているでしょう。
「偽物の花嫁を差し出して、王家を謀ろうとは、それでもお前は貴族の娘か!」
「そのぐらい良いじゃない、私はこの女のせいでこれまで、辛い目にあって来たのよ。」
お爺様が叱責しますが、妹は反発します。ついでに猫も剥がれました。
王家に対して詐欺を行うのは、普通に一族郎党連座で斬首の大罪ですよ、自分は辛かった、だから犯罪を犯しても許される、なんて理屈が通りますか。
「今更偽物だからなんだと言うのよ、私は昔からこの女の偽物扱いだったのよ!神託が下るずっと前から、みんな勝手に間違えた揚句に『まぎらわしい』って言ったわ、この女の命を狙って屋敷に忍び込んで来た魔族までが、そう言って一度は捕らえた私の事を打ち捨てたのよ!」
魔族には、殺されずに済んだのですから幸運だったのですよ?ソレを怒ってどうするの変な子ね?
双子ですから、私もあなたの友達によく間違われましたよ。
全部が全部あなたの被害妄想だとは言いません、神託が下ってから擦り寄って来る者や無責任な野次馬に、悪意を以って比較する輩は確かにいましたしね、でもお互い様ですよ、あなたはそれを承知で貢がせたり詐欺同然の空約束で揉め事も起こしましたね。
「姉と入れ代わると言ったが、その為にお前は己の顔も焼くつもりか?」
そうですね、偽物を極める覚悟が有ると言うなら。
そこまでやっても手遅れですが。
「顔?どういう意味です?何故私がそんなことをしなくちゃいけないって言うの?」
話が噛み合っていませんが、私は合点がいきました。
「お爺様、私は昨夜この子と顔を合わせていませんわ、今も真っ暗で、見えていないのでしょう。」
出迎えに出て来ないのは、もうどこかに嫁いだのかと思っていましたが。
「そうか、おい、そこの窓を開けろ。」
男爵家の懐具合では、窓ガラスなんて高価な品物が屋根裏部屋に迄はまっていません、この子も暗視訓練など受けていないでしょうし。
お爺様に命じられて、お父様が鎧戸を開けると、朝の光りが室内に溢れます。
「キャアァッッ」
勘違いしているようですが『祝福の花』は、本人達が祝福されている訳ではありません、女神が魔族に脅かされる人々を祝福するために、投げ与えられた存在が私達10人の『花』なのです。
具体的には、承諾無しで異世界から転生させられ、尋常ではない”力“を持つせいで化け物と呼ばれ、人々に遠巻きにされ、神託で逃げ道を塞がれて、魔王軍との過酷な戦いに国家を挙げて追いやられたのです。
「嫌々、嫌よ、そんなもの私に見せないで!」
さすがに、8年前迄は鏡の様にそっくりだった顔が右側だけとはいえ、焼け爛れているのはショックだった様です。
なぜか自分の顔を押さえて叫び続けていますが、そんなものとか化け物とか、私の怪我を気遣う様な言葉は、見事に一言もありませんね。
さて、無駄に前向きな妹が、無駄な努力をする前に、告げるべきことは告げましょう。
「私達が入れ代わる『詐欺』以前の問題で、私は既に結婚していますし、それを王太子様もご存知です。なにより肝心の王太子様御本人も別の方とご婚約が整われました。」
あなたの行動は、遅きに過ぎましたね?野望は潰えたと理解して下さい。




