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飛べない僕を飛ばす彼女  作者: 小淵啓太
1/1

出会い

初投稿です。遅筆なのでゆっくりと投稿すると思います。あたたかい目でも厳しい目でも見てくれるとうれしいです。思いつきなので設定とかすごい甘いです。

風を感じる。

機体の中は風どころかどよんと濁った空気なのだが。

今はレースの真っ只中、敵と火花を散らし、戦っている。

フライヤーレース。機体(フライヤー)で空を飛び速さを競うレース。その世界大会決勝戦である。ハヤタは数ある猛者を追い抜き一位を独走していた。

機体が熱くなり機体内の温度が上昇するに対して、頭がドンドン冷えていく。

俺は風。もっと速く。もっと速く。ペダルを踏み、スピードを上げる。

ハヤタは全身に風を感じる。風と一体化するのだ。

このレースで、誰よりも速く、誰よりも美しく、ハヤタは飛んだ。

他の走者の存在は彼の中から消えていた。あるのはただ速く飛ぶという意思、風になるのだという思い。

だが、それがいけなかった。競争というものは常に誰かを蹴落とすものである。誰かを蹴落とすと同時に、自分が蹴落とされることに気をつけねばならない。その注意をハヤタは怠った。


機体の後ろから衝撃がくる。敵の機体が体当たりをしてきたのだ。

「くそっ」

とハヤタは毒づきスピードをあげようとする。

が、この一瞬のスキを狙い別の機体が前に回り込む。

ハヤタは追い抜こうとするが、前の機体はそうはさせじとハヤタの前を塞ぐ。

後ろからの体当たりはまだ続いている。完全に挟まれた。

「なめんな!」

ハヤタは自分の操縦テクニックに絶対の自信を持っている。どんな機体も彼の体の一部のようにあつかえる。まさに天才。幼い頃から神童と言われ続け、ハヤタの自信は揺るがないものだった。次の瞬間までは。


突然機体が言う事をきかなくなる。

「え?」

機体が制御を失い、重力に引っ張られる。

そんな馬鹿な。俺は風だ。風が落ちるなんて有り得ない。

機体がぐるぐる回る。

初めての失策、失敗、そして恐怖。

嘔吐感がこみ上げる。

目の前が真っ赤に染まった。



朝おきたらまず顔を洗い、制服に着替える。

そして居間でご飯を食べる。

ハヤタはこの時間が一日で一番嫌いだった。

「ねむい…」

「ハヤタ、コトハちゃんがまってるからはやくしなさい」

母にそう言われ、すぐに朝飯を食べる。

「おはようハヤタ」

ジジイが俺に話しかけるが無視。

「ハヤタ、いい加減にお爺ちゃんに挨拶ぐらい…」

「いってきます。」

朝飯をかきこむように食べ、玄関に向かった。


「ハヤタ君、おはよう」

「おはよ」

玄関先で俺を出迎えてくれてたのは幼馴染のコトハ。

毎朝家の前で律儀に俺を待っている。物好きなやつだな、と思いつつも、可愛い女の子が毎朝自分のことを待ってくれているという状況が少し嬉しかったりもしていた。

「今日は寒いねぇ」

コトハの言うとおり、秋にしては少し寒すぎる。コトハはマフラーに首をうずめて、あったかい、とつぶやいている。髪が長いのでそうすると目元しか見えなくなる。お化けみたいだなと思った。

「俺も少しは着込んでくれば良かったな」

「マフラー使う?」

ぴらぴらとマフラーの端を振り、使うかい?とアピールする。

「いや、お前が寒いだろ」

「一緒に使えば寒くないよ?」

コトハと一緒にマフラーを巻いてるところを想像してみる。恥ずかしいとか考える前に、

歩きにくそうだ。

「遠慮する」

「そ」

マフラーを引っ込めるコトハはすこし残念そうな顔をしていた。


バルバルバル


爆音とともにフライヤーが頭上をすごいスピードで飛び去る。

明らかに法定速度を無視している。

「どこのバカだよ…」

朝からうるせえなぁ、コトハに愚痴ると、彼女は

そうだねーと相槌をうった。


空中都市東京。それが俺たちが住む町。

百年前に海面が急上昇して人類の半分ぐらいが溺れ死んだ。いろいろ大変だったらしいが、

とある科学者が反重力装置を開発。それを利用して人類の残りの半分が頑張って空中に住む場所を創ってから五十年がたった。さっきのフライヤーもこの反重力装置を利用して作られたもの。昔でいう車の代わりをしている。

それにしても、とハヤタは思う。

朝からフライヤーでアホみたいにはしりまわるほど、みんな昔あった不幸なんてすっぱり忘れて平和に過ごしている。

何億人と死んだ不幸がたった五十年で忘れられるのか、人類って鈍いなぁ、なんて考えていたら頭を小突かれた。

「ハヤタ君、聞いている?」

「ごめん、なんだっけ?」

正直に聞いてなかったという。コトハには嘘をつけない。


「お爺さんとはまだ仲直りしてないの?」


嫌な気分になる。宿題ちゃんとやったの? と母さんに怒られた気分。

「コトハには関係ないだろ」

いまからやろうとしたとこだよ! と逆ギレした子供のようにいった。

コトハ母さんは頬をふくらませて(可愛い母さんもあったものである)言い返してきた。

「関係あるよ! ハヤタ君とお爺さんが仲悪かったら悲しいよ!」

予想以上にコトハは怒った。

「昔はあんなに仲が良かったじゃない。それにもうあれから一年も…」

「うるさい! お前は俺の母親か!」

いい加減うっとおしい。が、コトハはますます説教を加速させた。

「昔からハヤタ君はそうだよね。都合が悪くなるといっつもうるさいって。私が一生懸命ハヤタ君のこと考えてるのに―」

コトハの説教は長い。とっとと逃げるが吉だ。

「ちょっとハヤタ君!?」

「先に学校行ってろ!」

うしろでバカーッ!と聞こえたがきにしない。


ハヤタはさっきコトハに言われたことを考えていた。

お爺さんとはまだ仲直りしてないの?

あの事故から一年、未だに祖父とは口を聞いていない。

空路を見上げる。

予想していた光景が目に飛び込んでくる。

たくさんのフライヤーが飛び交う空路。

かつて自分もあのフライヤーたちのように…。


爆音がした。

さっき爆走していたフライヤーだ。

どこかにぶつけたのか、機体の一部が破損している。

「…こっちにくる!?」

暴走フライヤーは地面に突っ込んだ。


衝撃と煙が舞う。

「た、大変だ」

一年前の事故を思い出す。こみ上げる嘔吐感。それを引っ込める。

フライヤーの中の人を助けなければ。

「大丈夫ですか!?」

地面に頭から突っ込んだにしてはフライヤーは形を保っていた。ドアが開き、人が出てくる。

「イテ―ッ、クソ、コースアウトだ!」

女の子だった。つなぎにゴーグルという服装。なにやら毒づいている。

「怪我してませんか?」

そう聞くと少女はこちらを向いた。

…少し圧倒される。陳腐な感想だが、すごい綺麗な顔

だった。

少女はしかめっ面をして自分の足首を睨んだ。

「足首をひねったみたいだ。ちくしょう。これじゃペダルが踏めないっ」

フライヤーはペダルでスピードのコントロールをする。だが、この少女はまだ運転する気でいるのか?

「病院に行かないと、あと警察に」

「はぁ? そんな場合じゃないっての。このままじゃ負けちまう。くそったれ!」

すごい綺麗な顔をしているのに言葉遣いはきたないな。なんて思っていると、じっとこちらを見つめられる。

「な、なに?」

「お前、運転しろ」


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