死因探偵 第1章~教師の罪~
一見栄えた大通り、人も多くにぎやかな街。
その裏通りに家というよりは倉に近い建物、小さな立て看板には「堤探偵事務所」と書かれている。
内装は外見からは予想がつかないほど綺麗で、ヨーロッパ風の家具や装飾が施されている。
しかしこの探偵事務所ただの探偵事務所ではない。
ここの探偵「堤中世」には奇妙な二つ名がついている。
その名も「死因探偵」。
この探偵事務所には一風変わった依頼人が集う。
その依頼人とは一体、誰なのでしょうか。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
堤は隣町のとある私立高校に来ていた。
「こちらに松田智一という教師はおられますでしょうか?」
「松田智一は私だが、あなたは?」
「申し遅れました、私、堤探偵事務所の堤中世と申します」
「探偵?いや失礼。探偵殿が私になんの御用ですかな」
「こちらでお話してもよいのですが、下校中の生徒さんに聞かれてしまいます。よろしいですか?」
「何の話か知らないが、場所を移そう。ついてきたまえ」
校舎から少し離れた高架下に移動した。
「それで話とは」
「はい。昨年あなたが担当していたクラスの生徒さんから依頼を受けまして、お話を聞きに参りました」
「生徒から?」
松田は怪訝そうな顔をした。
「それはそれは、どの生徒からの依頼で?」
「残念ですが、それはお教えすることはできません。探偵には守秘義務というものがありますので」
「そうですか、それで、何をお聞きになりたいので?」
「はい。昨年あなたの担当された3年C組の生徒の一人が母親と共に一家心中されたそうですね」
「確かにいましたが、それと私に何の関係が?」
「一家心中の理由はお聞きになられましたか?」
「いいえ、警察から連絡もありましたが、遺書も残されてなかったようですし、学校とはなにも関係はな
いだろうとのことでした」
「なるほど、ならば亡くなられ生徒さん、内田里奈さんはどのような生徒でしたか?」
「内田は、成績は良かったですが、素行が悪く、校則違反もしばしば。そのせいで、指定校推薦も取り消
され、我が校も恥をかかされましたな」
「どのような校則違反をされたのでしょう」
「髪を染めたり、無断でアルバイトをしたりと、他にも様々」
「そうですか、私が収集した情報と少し異なる部分があるようですね」
「と、いいますと?」
「内田里奈さんはクォーターで明るい髪は地毛だそうなので、校則違反ではないのでは?」
「しかし、風紀も乱れますし、他の生徒が影響されたら」
「御校にはハーフやクォーターであることを報告する義務はないようですし、ハーフやクォーターでなく
とも色素が薄い日本人だと内田里奈さんくらいの髪の明るさの人も少なからずいます。」
「我が校は由緒正しき私立高校ですし、」
「それとこれとは話がべつでは?あなたのしていたことは指導ではなく差別です」
「失礼な!私は差別などしていない!」
「そうでしょうか、差別をしているかどうかは本人は気づかないことの方が多いですし、差別をしていな
と言うのであれば、宮脇桜さんについてはどうご説明なさるつもりです?」
松田は言葉をつまらせた。
「あなたのクラスの生徒さんですよね、内田里奈さんの指定校推薦が宮脇桜さんに譲渡されていますが、
理由をお聞かせ願えますか?」
「内田がとっていた指定校推薦は我が校から毎年優秀な生徒が受験しています。素行不良で剥奪されたと
はいえ、我が校から生徒を排出しないわけにもいかなかったので、素行もよく生徒からも教員からも人
気の高かった宮脇に譲渡したのです」
「それ以上の理由はないと?」
「当たり前だ!君!私を馬鹿にするのもいい加減にしたまえ!」
「おかしいですね、指定校推薦にはそれなりの成績が必要なはず、宮脇さんの成績では指定校推薦をとれ
るはずがないのです。他の職員方からのお話によれば、松田先生が宮脇桜さんをすごく推していたと
か。」
「それは、我がクラスの生徒から指定校推薦を出したい一心で」
「クラスの中には宮脇桜さんよりも成績がよく、指定校推薦を志願していた生徒もいたでしょう。」
松田はまた言葉をつまらせる。
「それに、この写真や動画にはどう説明するおつもりですか?」
堤中世は茶封筒の中から複数の写真とタブレットを取り出した。
「こっ、これは」
堤が取り出した写真は校舎裏で宮脇桜と松田智一が密会しているように見える写真だった。
「これは、宮脇から進路について相談があると言われたからで、決してやましいことをしていたわけでは
ない!」
「ただの進路相談に校舎裏の人目につかない場所を選んだというわけですか」
「仕方ないだろう、宮脇が人には聞かれたくないと言ったんだ」
「御校には一度見学に入らせていただいたことがありますが、進路相談室は複数完備されていましたし、
自習室や職員室にも個室が見受けられました。いくら受験シーズンだからといってすべてが使用中だっ
たわけではないでしょう?」
「いや、その日はたまたますべて使用中で、」
声を荒らげたり、逆に言葉につまったりを繰り返し、明らかに松田は同様していた。
「それでは、この動画は?」
堤はタブレットを開き、画面を松田の方に向けた。
画面を見るなり松田の顔はみるみる青ざめていった。
タブレットには、松田と宮脇が教室で事を致している動画が流されていた。
「こんなのデタラメだ!フェイク動画だろう!私はこんなことしていない!」
「この動画がフェイクであるかどうかは警察に調べてもらえばわかることですし、当事者である生徒が卒
業しているとはいえ、公になるとマズいのでは?」
松田は何も言えずだんまりを決め込み、堤を睨みつける。
「それよりも、この動画がなぜ私の手元にあるのかが気になりますか?」
「そうだ!その動画は!」
そういうと松田は口を押さえた。
「この動画は私が管理しているはずなのに、とおっしゃりたいのでしょう?」
堤はニタリと笑った。
「そうです!この動画はあなたの自宅にあったパソコンから拝借したものです!厳重に保管されていましたが、逆に目立っていましたよ」
たんたんと堤が話し続ける。
「そうそう、この動画を抜き出したパソコンですが、小さく‟内田里奈”と書かれていましたね。どうして
内田里奈さんの私物を一教員であるあなたが持っているのでしょうか」
松田は何も言わず、下を向いている。
「だんまりですか、いいでしょう。どうせあなたに逃げ道は残されてないのですから」
「どういうことだ、」
「隠されていたパソコンと一緒にとある小瓶を見つけました。中にのこっていた粉を調べてわかったので
すが、内田里奈さんが一家心中をはかった時に使われた毒物と同じものが検出されました」
松田は顔面蒼白、全身が小刻みに震えている。
「これは、私の勝手な推理ですが、あなたは宮脇桜さんと恋人または愛人関係にあり、宮脇桜さんに頼ま
れ指定校推薦の枠を彼女に譲るように計画を立てた。内田里奈さんの素行不良をでっち上げ、計画通り
剥奪となった指定校推薦の枠を宮脇桜さんに譲ったが、宮脇さんとの関係を内田里奈さんに知られてし
まい、彼女を口封じのため一家心中に見せかけて殺した。」
「ちっ違う、そんなことはしていない!」
「まだ認めませんか、あなたは学校で化学を専門として教えていますね。一家心中に用いられた毒物は学
校の備品としても取り扱われている薬品でした。警察は内田里奈さん本人が持ち出したものだと断定し
たようですが、薬品棚には厳重に鍵がかけられており、その鍵はあなたが肌身離さず持ち歩いている。
はたして本当に内田里奈さんが持ち出したものなのでしょうか。」
松田は今にも倒れそうな顔をしている。
「あぁ、それと、これらの証拠品はすべてコピーで、本物は警察に届けました。今頃あなたの自宅に家宅
捜索に入っている頃でしょうね。」
その言葉を聞いて松田は膝から崩れ落ちた。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
「松田智一だな、内田親子殺人の疑いで逮捕する」
絶望している松田はおとなしく手錠をかけられ、パトカーに連行されていく。
「松田さん、ご自分の罪を認めてしっかり償ってくださいね。それと、探偵には守秘義務があるので依頼主についてはお教えできないのですが、依頼主本人の希望ですのでお教えしましょう。」
堤は松田に近づき、ニコリと笑った。
「今回の依頼主は内田里奈さんです」
「なにを言っているんだ、内田は死んだはず、」
「えぇ、お亡くなりになられてますよ。しかし、ほら、今もあなたの側で恨みつらみを唱えてますよ」
松田はゆっくりと横を向き、悲鳴をあげた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!許してくれ!たすけてくれぇぇぇぇぇぇ!」
悲鳴を上げ暴れだした松田を警察は無理やり輸送車に押し込んだ。
「堤、今回も協力感謝する。」
一人の刑事が堤に声をかける。
「いえいえ、小鳥遊君こそお疲れ様でした」
「いや、かまわん。しかし、毎回容疑者を発狂させるのはどうにかならんのか。」
「どうにかと言われましても、私の依頼人は正体を明かしてほしいという人が多いものですから」
「発狂した奴を連行するのは骨が折れる。それと、証拠品の調査も俺に連絡してからにしてくれ、俺はい
つか不法侵入でお前を捕まえないといけなくなりそうだ」
「ふふふ、事件解決のための必要調査ですから、大目に見てくださいね」
「じゃあな、俺はもう行く」
「はい。お疲れさまでした」
刑事と別れ、堤は帰路についた。
「次はどのような依頼主がいらっしゃるのでしょうか。楽しみですね」
堤は夕焼けの中を歩きながらそう呟いた。




