鬼教官と眠る騎士見習い
ガリー・ガリガリは教官である。
騎士見習いたちにとって、ガリーは鬼教官である。
だが一人だけ恐れない強者がいた。
ジャン・ダンである。
優秀な成績で騎士団に入団したが、訓練では何故か落ちこぼれだった。
とにかく眠る眠る。
訓練中でも舟を漕ぎ、ガリーが叱っても眠る眠る。ガリーは頭を抱えた。
食堂でも舟を漕ぎ、スープの皿に顔を突っ込むこともあった。
「ほら! ちゃんと口を開けなさいジャン・ダン!」
ガリーは思わずジャンの世話を焼く。
あるときガリーは目撃する。
王太子殿下とジャンが一緒にいるところを。
笑い合う姿に胸の奥が痛んだ。
ガリーは二人から目を逸らした。
そしてジャンの世話を焼くのをやめた。
ジャンはスープの皿に顔を突っ込む。
ガリーはその場から離れる。
王太子殿下と笑い合ったジャンの顔が忘れられない。
訓練中に飛んできた木刀が顔にぶつかり、鼻血を出してよろめいた。
「教官!」
ジャンが木刀を放り投げてガリーに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
鼻を押さえるガリーはただ頷くだけで、何も言えないでいる。
「ああ! 教官が何も言わないなんて! 死んでしまう!」
「死にませんよ」
木刀を飛ばした見習いは顔が真っ青で、今にでも倒れてしまいかねないでいる。
「そのまま訓練を続けなさい。私は保健室に行きます」
「オレが付き添います」
ガリーはジャンの言葉に何も言わなかった。
保健室は開いていたが、保険医は出ているようで誰もいない。
ジャンは何処からか見つけたタオルをガリーの鼻に押しつけた。
「いつもの教官なら受け止めるか避けるかするでしょうに、今日はどうしちゃったんですか?」
ガリーは血に染まったタオルを鼻から離すと、鼻血は止まっていた。
「私にもぶつかる日があるんですよ」
「教官にぶつけた奴、オレと打ち合いしてたんです。オレのが決まって、木刀を飛ばしたんです。でも決めたオレが悪いですよね? すみませんでした」
「あなたが悪い訳じゃないでしょう」
「なら飛ばしたあいつですか?」
ガリーはジャンから目線を落とす。
「私がいけなかったんです」
「今日の教官は本物ですか? 教官の皮を被った別人じゃないですよね?」
「さあ。どうでしょうね? どっちだと思います?」
ジャンはガリーの頬を引っ張る。そしてキスをした。唇から離れるジャンをガリーは見る。
「どうしてキスしたんですか?」
「今なら怒らないと思って」
ジャンはもう一度ガリーにキスをする。
「オレ、もうすぐ毒味役から外してもらえそうなんですよ。そしたら教官の一番の生徒になるんで、そしたら付き合ってくれませんか?」
「あなた。毒味役なんてしているんですか?」
目を丸くするガリーにジャンは頬を掻く。
「あれ? 知りませんでしたか? 他の教官は知っているんですけど」
「知りません。どうしてあなたが毒味役なんてやっているんですか?」
「オレの体質はどんな毒でも体内で分解できるんですよ。その代わり眠くなるんですけど。オレが優秀な成績で騎士団に入団したんで、王太子殿下が毒味役はもったいないとおっしゃられて、毒味役から外してもらえそうなんですよ」
「だからいつも眠そうだったんですね」
「てっきり教官も知っているものかと思ってました」
「ガリーと呼んで下さい」
「いいんですか? オレまだ教官にふさわしくないのに?」
「私の隣は私が決めます」
二人は見つめ合い、そしてどちらともなく、キスをした。




