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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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9/13

8

寝室が明るくなり、駒姫は目を覚ました。体が一気に覚醒する。内側から力が溢れてくるようだった。


駒姫は寝室の隅にある鏡台の布を引く。そこに映る駒姫は晴れ晴れとした表情をしていた。鏡に顔を近付けてよく見る。いつも化粧で隠していた隈は面影もない。


襖の外に人の気配がする。勘助がそこにいるのだ。


勘助が護衛になってから、よく眠れるようになった。仕合で見せた圧倒的な力が守ってくれるのだ。この世界の誰よりも安全なのではないかと思ってしまう。


駒姫は襖の近くに行き、膝をついた。


「おはよう、勘助。おかげさまでぐっすり眠れたわ」


「おはようございます。それは良かったです」


元気そうな声だった。神刀の一族は夜通し見張りをしたところでどうってことないらしい。


「今日は城下町に行く日よ。夜の見張りに引き続き、申し訳無いけど、貴方にも護衛して貰うわ」


「承知しました」


駒姫は神刀の一族のことがふと気になった。とてつもない力を持つのに、真面目に仕事をこなす彼の一族のことを。


「……ねえ、神刀の一族ってどのような方々なの?」


「......弱き者を守る。それが一族の責務です」


「素敵ね。貴方もその責務に生きているのね。私も城下町で治癒者の責務を全うするわ」


駒姫の声は優しかった。


「……少し仮眠してきたら?」


「それでは、お言葉に甘えて休ませて頂きます。何かあった時に姫様をお守りするために」


駒姫は交代の護衛を呼んだ。


交代の護衛がきたら、勘助は襖の前から去った。


その後、駒姫は支度をし、正吉と勘助と数人の護衛を引き連れて、城下町へと繰り出した。


鍛冶の槌音が途切れず、子供の笑い声が道を渡っていく。


店が隙間なく並ぶ道は曲がりくねり、先が見えない。駒姫一行が角を曲がると、荷車が横を通り、危うく肩が触れた。


野菜を売り込む商人の声が重なり、ふんどし姿の飛脚が土埃を上げて走り抜ける。屋根の上では、大工が瓦を打ち直していた。


人々の足取りを追って、駒姫は一瞬だけ立ち止まった。亀山家が治める土地で人々がこうして生きている。その事実に思わず頬が緩む。


月川城は大きな姿で見守っていた。


しかし、そのような場所が全てではない。暗く淀んだ場所もある。これから、駒姫達が向かうのはそのような場所である。


昼間だというのにその路地は湿っぽく薄暗かった。何人もの人が蹲り、呻いていた。


その一人に駒姫は声をかけた。


「大丈夫?」


その老人には足に噛まれた後があった。恐らく、野犬の仕業だろう。化膿してしまっている。


護衛達は念のため、刀に手を掛ける。


「駒姫様……また、このようなところに……きてはなりません……御身が汚れますゆえ……」


老人は汚れた顔を苦しそうに上げた。歯がすっかり抜け落ちた口で呻く。


「痛そうね……今、治すわ」


駒姫は蠅がたかっている老人に近付く。鼻を突き刺す臭気に顔をしかめることもなく、患部に治癒の光を当てた。その光は薄暗い路地を優しく照らした。


「駒姫様、わしらなんかのためにありがとうございます……」


老人は泣いていた。その涙は顔の汚れも混ざり、黒く染まっていた。


護衛達は既に刀から手を離していた。


「いいのよ。亀山家の配食もちゃんと毎日食べてね」


「ありがたや……」


「それじゃあ、私は次の人を治してくるわ」


駒姫はそう言うと、次の人のところへ向かった。その額には汗が光っている。


護衛達も駒姫の後に続く。


すっかり夕暮れ時になってしまった。駒姫は数え切れない程の市井の者達を治し、月川城への帰路へとつく。


家臣達がこの行いに反対していることを駒姫は知っている。いつ、どこで、誰に襲われるか、わからないからである。現に今日も何人かに襲われかけて、正吉や勘助に守ってもらった。


それでも、駒姫は城下町に足を運びたかった。治療を必要としている人は山ほどいるのだから。今日だって全ての人を治せたとは到底言えない。


「あら、勘助。難しい顔してどうしたの?」


「……何故、姫様はこのような行いをなさるのでしょうか?」


勘助が駒姫に問い掛けた。いつもと違うような声色と目をしているように感じた。どこか迷っていそうだった。


短い付き合いだが、彼のそのような様子を見たことがない駒姫は珍しく感じた。


「貴方と同じよ、勘助。弱き者を守るため。私は恵まれた環境に生きているわ。綺麗な着物を着られるし、美味しいご飯を食べられるし、暖かい布団で眠ることができる。だからこそ、私だけが恵まれていてはいけないのよ」


「姫様はお優しいんだ。俺が小さい頃、親父を治して貰ったことがあるんだぜ」


正吉は笑いながら勘助を見た。


「……姫様は恐ろしくないのですか? 今日も何度も命を狙われたというのに」


駒姫の目が少しだけ揺れたが、力強い声で話した。


「恐ろしくないと言えば、嘘になるわ。でもね、勘助。それでも、私は人を治すことを選ぶわ」


「……そうですか」


勘助は視線を落とし、呟いた。


駒姫と護衛達は夕焼けに赤く照らされていた。

勘助だけが建物の黒い影の中にいる。

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