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「始め!」
宮司から開始の号令がかけられた。
勘助は伊与の姿を脳裏にはっきりと思い浮かべた。笑っている姿だ。
すると、刀の冷たい鉄が血潮の温みに変わり、一体化したような感覚になる。まるで腕が延びたようである。
勘助は神刀に深紅の炎を纏わせた。それは口内で唾液の分泌を制御するように自由自在である。
見物人の反応はそれぞれだ。
女性や子供などの戦の経験があまりなさそうに見える者は喜び、武士達は顔を強張らせていた。刀に手をかけている者もいた。
彼らはわかっているのだろう。この炎の戦場での脅威が。刀や槍などにより近接で戦うことが多い時代において、この炎は全てを焼き付くす。
見物人に当たってしまうため、炎の斬撃は飛ばせない。見物人に死傷者が出てしまったら、仕合に勝ったとしても、勘助が亀山家に受け入れられることはないだろう。
「うおおおおおお!」
正吉は勘助に迫りくる。炎に怯む様子はまるでない。
正吉は刀を振り下ろした。
勘助は神刀で斬り結ぶ。
鍔の迫り合いになった。
伊与の姿を思い浮かべて、炎の出力を上げる。
会場にどよめきが起きる。
これは見せかけの炎だ。正吉にはできるだけ当たらないように制御している。
正吉は鍔の競り合いを止めて下がった。
それ幸いと、勘助は更に炎の出力を上げた。正吉や見物人に当たらないように天高く燃やす。まるで神刀が延長しているように見えるだろう。
見物人達から悲鳴が上がるのがわかった。
正吉は想い人の前のため、何があろうと絶対に降参しないだろう。
勘助は駒姫に目配せをする。
これ以上、続行してもいいのか。このままだと正吉がどうなるか、わからないぞ。そのような思いを込めた。
「そこまで!」
意図を組んでくれたのか、駒姫は立ち上がり、よく通る声で制止した。
「神刀勘助、貴方の力はよく理解できました。正吉もこのような強大な力の前で怯まずによく戦ってくれました。私は貴方が護衛で誇らしいです」
勘助の力を認め、正吉の自尊心も傷つけない形で収めた。
見物人からは拍手が起きる。
「正吉、あんたは凄いよ!」
「見事な仕合だった!」
正吉は息を大きく吐いた。
「正吉、大丈夫!?」
駒姫は正吉に駆け寄ってきた。
侍女も慌ててついてくる。
「姫様、このくらいかすり傷です!」
正吉の腕は火傷を負っていた。手加減したとはいえ、炎に近づいたのだ。それだけ炎は恐ろしい。
「今、治すわね」
駒姫は正吉の患部に手をかざした。掌から蛍のように優しく淡い光が放たれる。すると、みるみるうちに患部が治っていく。
「はい、治ったわよ」
「おー、ありがとうございます!」
正吉は腕を回転させながら観察し、感嘆した。その様子は少し前まで火傷していたなんて、思えなかった。
勘助は治癒者の力を見るのはこれが初めてだった。なんと優しく穏やかな光なんだろうか。
しかし、いくら心暖まるような光といえど、触れられたら、神刀は無力化されてしまう。それは何としても避けなければならない。
勘助は二人から少し離れた。
駒姫は治癒の力に相応しい優しさも持ち合わせているようだった。
だが、あまり肩入れしてはいけない。勘助は駒姫を拐う任務を請け負っているのだから。
「勘助、お前は凄い。疑って悪かったな。これから、一緒に姫様を守っていこう」
正吉は勘助がとった距離を詰めて、笑顔で手を差し出した。
勘助は遠慮がちにその手を握り返した。
見物人からの拍手も鳴り響いた。
「ええ、これからよろしくね」
駒姫の顔に柔らかな笑みが咲いた。
これは任務だから、あまり肩入れしすぎてはいけない。勘助はそう心で言い聞かせた。




