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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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4

勘助は米俵を六つ背負って、隠れ里までの道中を歩く。山中の険しい獣道だ。道なき道を、木々を避け、岩々を越え、足取り軽く歩いていく。


ひとまず、穢れを祓わなければならない。任務で農村を荒らす盗賊の集団を成敗してきたのだ。悪を成敗したとは関係なしに死は心身に穢れを帯びてしまう。そのままにしていたら、本人だけではなく、周囲にも悪影響をもたらす。


勘助は隠れ里近くの川に寄って、身を清めた。川に入っても、水は透明なままだが、穢れは洗い流せただろう。


川からしばらく歩くと、隠れ里に到着した。背の高い木々が隠れ里を覆い隠し、麓からは見ることができないようにしてある。


勘助は家に辿り着くと、玄関前で米俵を下ろした。茅葺き屋根に土壁、どこにでもある農民の家みたいだが、ここにしかない勘助の家である。


玄関から家に入る。


相変わらずの無音で広い家だ。床板を踏むと、軋む音が殊更響いた。その音が鳴り止んだら、無音が耳に響く。


伊与のお帰りの声が恋しくなった。一人では、床板が軋む音は一つしかしない。


この後に一郎の元に行き、依頼の成功を告げて、報酬の山分けをしなければならない。


しかし、折角帰ってきたのだから、家で一休みしてから報告に行こう。


そう思い、寝転がっていると、一郎が家にやってきた。わざわざ出向く手間が省けた。


「お疲れ様、今回も報酬が大量だな」


一郎は玄関前に積んだ米俵を叩いた。乾いた音が鳴る。


米俵を見て、勘助はふと思い出したことがあった。


「そういえば、米俵を運んでいる道中、僧に神刀から邪気を感じると怒られたな」


「ああ、俺も言われたことがある。一族の始まりの神刀も僧から製作方法を教わったそうだが、流派が違うんだろう。それよりも戻ってきて早々悪いんだが、新しい任務がある」


「ああ、大丈夫だ」


「そう言って貰えると助かる。急ぎの任務だ。亀山家から駒姫の護衛の依頼がきている。それを受ける振りをして、月川城に潜入して、駒姫を金鶴城まで拐ってきてほしい。我々が本当に依頼を受けるのは犬井家の方だ」


状況はややこしい。

つまり、亀山家の駒姫護衛の依頼を利用しつつ、犬井家のために駒姫を拐えってことか。


「駒姫には気を付けろよ。治癒者は神刀を無力化させるからな」


治癒者は神刀の一族の天敵に当たる。幼い頃から一郎にそう教えられてきた。


勘助は口を結び、腰の神刀を見た。神刀は勘助の命そのものである。無力化されるのは耐えられない。


「それと多田十兵衛を怒らせないようにしろよ。俺が現役の頃に倒せなかった相手だ。神刀の歴史に泥を塗ってしまった、忌々しい記憶だ」


「一郎でも倒せないとなると相当強いんだな」


「強いなんてものじゃなかった。まさに武の化身だ。でも、お前なら勝てるかもな。お前の神刀から発せられる炎は大きい。歴代でも最強格だ。伊与との絆が強いんだろう」


「まあ、俺達は愛し合っているから」


勘助は笑いながら、腰の神刀を撫でた。


「一族のしきたりの中でお前達ほど愛し合う夫婦も珍しい……そういえば、神刀の一族にふさわしい子供達は見つかったのか?」


勘助の顔から笑顔が消えた。


神刀の一族は有望な子供を拐って教育し、後継者とする。男には剣術を、女には献身の心を幼い頃から叩き込むのだ。


神刀の力を受け継ぐには男女が揃わないといけない。そのことはわかっているのに心が進まなかった。


勘助と伊与も幼い頃に一郎に拐われて隠れ里にやってきた。そこで愛を育み、結婚した。そして、儀式により伊与の魂を刀に移して、神刀を作成した。


勘助は視線を右往左往させながら、頬を掻いた。


「うーん、いい子がなかなか見つからなくてな……」


「そうか。神刀の一族を継ぐにふさわしい子供を吟味するのは結構だが、目利きが高すぎて選べないということにならないようにな」


「ああ、わかった。それじゃあ、そろそろ出立の準備をするよ」


勘助はその話題から逃げるように会話を切り上げようとした。


伊与と二人でこの世を良くしている。幸せなはずなのに何故か気が進まなかった。


勘助は一郎と別れた後、神社へと向かった。


一礼してから鳥居をくぐると、そこはもう神域だ。神刀の気で満ちている。


本殿の前に着き、御扉を開く。


そこには数多の神刀を持つ千手観音が鎮座していた。ここには歴代の神刀が奉納されているのだ。


勘助は両手を合わせ、静かに瞑目する。先人達の想いが勘助に降り注ぐように感じた。


「あなた方の御加護のおかげで、今回も無事に悪を成敗することができました。あなた方の献身は現在においても、その理念に反することはありません。どうか次の任務も見守っていてください」


千手観音は祈る勘助をただ見ていた。

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