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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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36

風は消え、隠れ里を包む木々の葉は沈黙している。


それでも空気は熱を帯びていく。


一郎が鞘から神刀を抜き放った瞬間、神刀からふっと朱色の光が漏れ、次の呼吸で炎が尾を引いて立ち上がった。


伊与、力を貸してくれ。


勘助が神刀と同期した途端に炎が噴き上がる。いつもより深く繋がっているように感じた。


勘助は一郎の正面に立ち、刀を横に構える。柄を握る手から、細い熱の脈動が伝わる。握る強さを少し変える度に刀身の炎が呼吸するように揺れた。


一郎がゆっくり歩く。地面が熱で乾き、踏みしめる度に砂粒が爆ぜる。


勘助は息を大きく吸い、心を鎮めた。目の前の男は誰よりも一族を重んじている。まるで数多の一族の者と対峙しているかのような重さを感じた。勘助は胸の奥を固めるように更に深く息を吸い込む。


一郎は風のように駆けた。地を蹴る音とほとんど同時に彼の軌跡が炎の弧となって勘助に迫る。


勘助は体を捻り、横へ転がり込む。


直後、先程まで立っていた地面が黒く焦げ、煙を出す。


「遅いぞ、勘助!」


一郎の声が炎の揺らぎに混じる。


勘助は歯を食いしばって立ち上がり、そのまま踏み込んだ。神刀を振り抜くと、炎が半月のように伸び、空気を裂く。


一郎は後退しながら、火の壁を生むように神刀を横薙ぎに払う。


二つの炎がぶつかり、轟音とともに衝撃波が走った。周囲の草が瞬時に焼け落ち、土が剝き出しになる。


「まだだ!」


勘助は火の粉が散る中を突き進み、一郎の胸元めがけて炎を叩きつける。


しかし、一郎は予見していたかのように身を捻って躱した。


その後の反撃が速かった。足元から巻き上がる火柱が勘助の視界を奪い、熱風が顔を焼く。咄嗟に腕で顔を庇う。


実際に一郎と対峙してわかった。思った以上に神刀は鈍る。明らかにいつもより重く、滑らかに振るうことができない。一郎と共に過ごした日々がちらつくのだ。


「覚悟はその程度か!」


火柱を割って、一郎が出てきた。炎に包まれた刀身が一直線に勘助の喉元へ伸びる。


勘助は横へと大きく跳躍する。それでも、熱が皮膚を削るように流れた。


息を整える暇もない。一郎の足元から炎が蛇のように伸び、勘助の脚を絡め取ろうと迫る。


勘助は刀を地面に突き立て、そこから炎を逆流させるように走らせた。


二つの炎がぶつかり激しく爆ぜ、白煙が巻き上がった。火の粉が舞い、勘助と伊与の家に着地する。二人の家が燃える。


それを見た勘助は思った。


過去はもう戻らない。それならば、未来を生きるしかない。伊与や先祖が苦しまない未来を。


勘助は家を見ることをやめた。


煙の中、一郎の気配が鋭く迫る。


勘助は目を閉じ、足音と熱の動きを拾い、横へ跳ぶ。炎が煙を裂き、すぐ後ろの木の幹が焼け落ちる。


勘助は転がりながら反撃の炎を放つ。低い姿勢から放たれた炎は地を這い、一郎の足元へと届いた。


一郎の動きが一瞬止まる。


勘助は踏み込み、炎を纏わせた神刀を真正面から叩き込んだ。手応えはあった。


「見事な一撃だ、勘助」


一郎は燃え盛っていた。


決定的だった。神刀の一族を救うためとはいえ、一郎を手にかけてしまった。育ての親を手にかけてしまった。


勘助の神刀は炎を宿したままで、鞘に納められなかった。


「こうなるのなら、あの夜に俺にとどめを刺しておくべきだったな」


「それはない」


燃える一郎は膝をついた。


「生きろ、勘助。お前のやりたいことをやれ。俺の妻も解放してやってくれ」


勘助の神刀の炎が消えた。


一郎は倒れて、動かなくなった。彼はまだ燃えたままだった。

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