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隠れ里への出立の早朝。晴天で空気は澄んでいた。
勘助と正吉は旅支度のまま、城門を潜ろうとしていた。普段なら見張りに咎められるところだ。しかし、今は見張りは彼等のことなど、まるで存在しないかのように振る舞う。二人が駒姫を助けに行くということで、協力者が根回しをしたのだ。
「不思議な気分だな。落ち着いているような、血が滾るような……」
正吉は何気ない様子で呟いた。
透明な二人が城門を潜ろうとした、その瞬間に少年の声が響き渡る。
「ちょっと待って!」
二人が振り返る。
そこには弥太郎がいた。
「見送りは御法度だって言ったじゃないか」
正吉は困ったように微笑むしかなかった。
あくまで城門は誰も通らなかったという体なのだ。見送りがいていいはずがない。
弥太郎は言葉を絞り出すように呟いた。
「本当は僕も行きたい……行きたいけど、僕は弱いから足手まといになる。だから、行けない」
言い終えた途端、肩が小さく震えた。俯き、涙を流していた。着物の裾をしわくちゃになるまで握り締めていた。
「今度は僕が姫様を守れるように……しーしょーが姫様を助けてきて!」
弥太郎は月川城で研鑽を積み、いつか母親と駒姫を守るだろう。
朝日が勘助の横顔を照らす。勘助は静かに手を上げた。
「任せろ!」
それを聞いた弥太郎は顔を上げ、涙を拭うことも忘れて手を振った。涙は朝日が反射して輝いていた。
勘助の身には無数の糸が絡み付いていた。それは隠れ里で神刀の一族として暮らしていた時にはなかったものである。それら全てを神刀を持ってして断ち切る気は勘助には毛頭なかった。




