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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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鬱蒼とした森の中を一郎は慣れた様子で歩いていく。


その後ろを駒姫が息を切らしながら付いていく。


一郎は足早に先に行き、駒姫に歩調を合わせようともしない。


明らかに金鶴城に拐われた時とは違う道を辿っている。駕籠はこのような道を通ることはできない。


木々が陽を遮り、空が見えなかった。


獣道を歩き続けて足が痛い。汗が滝のように流れ、肌は照り返り、化粧は崩れている感じがするし、着物の中はべちゃべちゃだ。


駒姫は息も絶え絶えに叫んだ。


「何故このような道を行くのですかー!」


「近道だ」


一郎は軽い様子だった。駒姫のことなど気にした素振りもない。


その様子に対して、駒姫は思うことがあったが、深く飲み下した。心のもやもやは晴れないが、見ない振りを決め込む。


下手なことを言って、一郎の機嫌を損ねたら、置いていかれてしまうかもしれない。駒姫の命運を握っているのは一郎なのだから。


今、着ている着物は犬井家のものである。色も柄も香も、馴染み深い亀山家のそれとはまるで違う。袖を通す度に、よそよそしい感覚がして、他人に抱き締められているような違和感を覚える。犬井家は梅のような甘く濃い香なのだが、亀山家は桜のような清楚で軽やかな香なのだ。


亀山家の着物に早く身を包みたい。


亀山家お抱えの仕立て屋が駒姫に似合うように心を込めて仕立てくれた着物。身に纏えば、優しい侍女達が微笑みながら、「お似合いですよ」と褒めてくれるのだ。


それにいつも使用している化粧ではないため、肌の乗りは悪いし、思った仕上がりにならない。いつもの化粧の有り難みが身を染みる。


月川城に帰ったら、湯浴みで汗を流して、いつもの着物を着て、いつもの化粧をして、皆と再開をしよう。また生きて会えたのだ。きっとお互いに喜びを分かち合えるはずである。


月川城に早く帰って皆に会いたい。髪が汗で顔に貼り付きながら、その一心で一郎の背中についていく。


「もうすぐつく」


急に一郎は駒姫のそばまでやってきて、隣を歩き始めた。安心感は全くなく、一挙一動を監視されているような感覚だった。緊張感が駒姫の心臓を締め上げる。


一郎はそう言うが、駒姫にとって全く地理感のない土地だった。生まれてからずっと過ごした土地の空気ではなかったのである。本当に目的地に向かっているのだろうか。


「ついたぞ」


月川城やその城下町の喧騒は何も聞こえてこない。あの熱気が伝わってこないのだ。


ただ、そこには家が数件あるだけだった。見慣れたものは何一つなかった。


二人の間では風の音がよく聞こえた。


「月川城はどこですか?」


駒姫の声に怒気が含まれている。帰れるという期待を裏切られたのだから。冗談にしても笑える類いのものではなかった。


一郎は温度のない目で駒姫を見つつ、平坦な声で言った。


「元々お前を月川城に連れていく気はなかった」


その言葉に駒姫は絶句した。


しかし、すぐに視線を尖らせた。


「約束を違えるのなら、亀山家と犬井家が黙っていませんよ」


一郎は揺らがない視線で駒姫を射貫いた。


「それでもいい。お前の命を奪うことは一族にとって、何よりも価値がある。勘助にもそう教えていたのだがな」


一郎は自嘲的な笑みを浮かべた。


駒姫は目の前が真っ白になる。月川城は遠く離れていってしまった。

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