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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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駕籠は狭く、揺れて、息が詰まる。


いつ担ぎ手が手を離し、駕籠が墜ちるかわからない。信頼できる亀山家の者ではなく、先に一戦交えた犬井家の者が担ぎ手なのだから。


駒姫は膝を抱え、静かに息を潜める。ただ、この闇が終わるのをじっと待っていた。


「於富様!」


「これで助かりますぞ!」


駕籠の中からでも溢れんばかりの歓声が聞こえる。


駒姫は駕籠の襖から外を覗く。


民衆が街道の端にびっしりと並んでいた。


於富の方がここまで民衆に愛されていたとは知らなかった。為政者は民衆に愛されにくい。それでも、この歓声があるということは、彼女はきっと民衆の顔を見て、政治をしてきたのだろう。


それならば、於富の方を救うために命を捧げてもいいかもしれない。


そう考えた時に駒姫は沈んでいく。


そして、視界が暗転した。


民衆の歓声はもう耳に入らない。


世界が静寂で満たされる。


そこで無感情の声で問いを投げ掛けられた。


人は死んだらどうなる?


母親が旅立った極楽は、果たして存在するのだろうか。


春の日の庭。幼い駒姫は木に隠れるように泣いていた。春日和なのに、そこだけ影が落ちている。花の香りは彼女を癒せなかった。


「見つけた。どうして泣いているの?」


俯いている駒姫の頭上から優しい声がした。駒姫が見上げると、母親のお初が笑っていた。彼女も駒姫のいる影へと入ってくる。


「あっ……その……えっと……」


駒姫はしゃくりながら言葉を詰まらせた。


侍女達が駒姫のことをもののけの類いではないかと囁いていたのをこっそり聞いてしまったのだ。


それが悲しくて悲しくて堪らなかった。駒姫だって、好きで治癒の力を持って産まれたわけではないのに。


そのことを話せば、城主である父親の兼経の耳に必ず入り、侍女達が処罰されてしまう。それは嫌だった。己を傷つけた者だとしても、誰かが不幸になるのはもっと耐え難かった。


だからこそ、駒姫は言い淀んでしまったのだ。


想いは溢れて仕方ないのに、それを言葉にしてはならないと無理矢理塞き止めていた。本当は母親に優しく抱き締めて欲しいのに。


そう思っていると、温かい感触に包まれた。


「それは貴女の優しさが形になったもの。貴女は私の宝物よ」


お初は駒姫の背中をあやすように叩いた。


駒姫の目から想いが溢れた。お初にしがみつく。


城主の妻としての着物が涙と鼻水で濡れる。だが、お初はそのようなことを気にもせずに駒姫を抱き締め続けた。


しばらくして、駒姫は泣き止んだ。


そうしたら、お初に「そのようなところは貴女に似合わないわ」と影から日の当たるところまで連れ出された。


その出来事から、すぐに流行り病でお初を亡くしてしまった。


病床で兼経の手を握り、駒姫を託して逝ってしまった。あんなに泣く父親の姿を見るのは初めてだった。


もういない母親が褒めてくれた治癒の力で少しでも多くの人を救いたい。そう思って、今日まで生きてきた。あの日の温かさは今も駒姫の胸にある。


犬井義信は母親を救おうとしている。きっと彼もまた母親に救われたのだろう。


そこまで考えたところではっとした。


駒姫自身もそうだった。


家族に愛された。


家臣が命懸けで守ってくれた。


傷を治した民に感謝された。


それらを途絶えさせてはいけない。


この命は愛された証として。彼等の想いを無に帰しないためにも。


もはや、駒姫の胸にあるのは母親だけの温かさだけではない。沢山の想いが駒姫を支えていた。

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