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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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できあがった朝食に二人で舌鼓を打ち、この日のために用意した白衣に伊与が着替えてから家を出る。


手を繋いで歩く二人を朝日が柔らかく照らす。


山裾の道に二人の影が並んで伸びる。


白衣の裾が風に揺れる。朝日で伊与の白衣が幽霊のように淡く輝いていた。


伊与は勘助に笑顔を向けた。


「幼い頃からずっと今日が来ることを待ち望んでいた」


「ああ、俺もだよ」


勘助は伊与に笑顔を返す。


そのまま歩いていると、滝の音が聞こえてきた。森が開け、滝壺が目の前に広がる。


伊与は澄んだ水の中に入り、目を閉じて両手を合わせる。長い黒髪が水面を漂う。


「寒くないか」


勘助が声をかけると、伊与は微笑んだ。


「大丈夫よ。ちゃんと身を清めなくちゃ。これから、私は神刀になるんですもの」


「ああ、そうだな」


滝壺から出ると、彼女の黒髪から豪雨のように雫が落ち、土に吸い込まれていった。土はみるみるうちに水を含み、色を変えた。


御祓が終わって、二人は再び手を繋いで歩き出した。彼女の手はすっかり冷えてしまっていた。


やがて、森の向こうに朝霧に包まれた本殿の屋根がぼんやりと見えた。


近付いていくと、本殿の輪郭が徐々に大きく鮮明になっていく。


鳥居をくぐったら、何か変わった。


呼吸する空気が透明に感じる。


鳥の声が耳に響く。


背が自然と伸びた。


本殿の前についたら、扉を開くために伊与の手を離した。二人で本殿に入り、千手観音の後ろにある梯子を下り、地下室へと降りていく。


地下室では炎が灯されていて、儀式用の香が焚かれていた。


伊与はまとった白衣を静かに丁寧にほどいた。彼女の手には迷いがなかった。薄暗い本殿内で彼女の肌が白く輝いていた。


伊与は中央の寝台に横たわり、勘助によって両の手足を信頼の縄で結ばれた。


人は何も身につけないで生まれてくる。しかし、生きるに従って、様々なものが身に纏わりつく。いつしかそれらを脱ぎ去り、己をさらけ出すことは恐ろしいことになる。


それでも、伊与は全てを脱ぎ去り、しかも、それらを隠すこともできないように拘束された。


それは勘助を信頼し、全てを委ねる行いである。一族の儀式ではこの信頼関係が大切なのだ。


「愛しているわ」


何の衒いもない、剥き出しの想いだった。


勘助は刀を両手に取り、彼女の胸に添えた。それはいつもの夜に溶け合うように愛を持って。


刀が伊与へと沈んでいく。


刀身が脈を打ち、刻まれた文字が赤く染まる。


伊与は赤子を生む時の母親のように苦悶の表情で叫んだ。


「伊与、頑張れよ……」


勘助は出産に付き合う父親のように励ました。


そして、伊与は刀の中へと吸い込まれていった。後には何もない。


「これからは一緒に任務をこなせるな」


勘助は静かに刀を抱いた。


神刀に刻まれた文字は赤く光り、心臓の鼓動のように脈打った。

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