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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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1

「この世を滅ぼす力が存在すると思うか?」


月川城の城主の亀山兼経は家臣達に問いかけた。威厳のある髭をたくわえ、鋭い視線で家臣達を見渡した。


世は戦国。中央の権威は落ち、群雄割拠で日夜骨肉の争いを繰り広げている。


今日も今日とて、月川城を治める亀山家は城の大広間で軍議を開催していた。


太い柱が並ぶ大広間には余計な調度はなく、壁際には槍や長刀が立て掛けられていた。畳は踏み固められ、年季が入っている。


今、大広間には重い沈黙が漂っている。


家臣達は畳に座し、誰もが口を開く時機を量っていた。


そこである若者が一番槍として口を開く。肌は瑞々しく、刀傷の一つも見当たらない。


「そのような力があるはずもありません。刀でも弓矢でも数人と戦うのが限度でございます。私も何度か戦場に出陣しましたが、見たことありません」


それを聞いた年寄りが首を振った。

肌はすっかり干からび、刀傷が体に刻まれている。


「まだまだ青いのう。己の見たものだけがこの世の全てと思ってしまうところがな」


「なんだと!」


若者は今にも掴みかかりそうな勢いだった。


それでも、年寄りは平然とした態度を崩さなかった。


「神刀の一族を知らないとはな」


その名前を出した途端に年寄り衆はざわめいた。


反面、若い衆はきょとんとした表情をしている。


「なんだよ、神刀の一族って」


「……神刀の一族とは、刀に炎をまとわせる一族のことじゃ。その炎で数多の城や人を燃やしつくしてきた。わしもその現場を見たことがあるが、凄惨の一言だった」


「からかうなよ」


若者は年寄りの分厚い手のひらが震えているのを見た。


「そんな話、今まで聞いたことないぞ!」


「武士は己の武功を誇りたがるものよ。敵わない化け物の話など口を噤むに決まっておる。お主もそうじゃろ?」


若者は沈黙で返した。天井を見て、畳を見て、屏風を見て、視線を彷徨わせる。

しばらく後に思い立ったように口を開く。


「どうやったら、そのような力を手に入れられるんだ? 俺も欲しい」


「……わからぬ。一族の力が代々受け継がれていているのは確かじゃが、どのように受け継がれているかは秘匿されているようじゃ」


「ちぇ、残念だ」


若者は口を尖らせた。


今まで沈黙を貫いていた兼経が口を開く。


「私が言った、この世を滅ぼす力とは、神刀の一族のことだ。その者達の力が必要なのだ」


「……それは姫様のためですか?」


兼経は頷く。


「駒は治癒者だ。どのような病もたちどころに治してしまう心臓を諸勢力から狙われている」


「おいたわしや。姫様は我々や城下の者達の傷を治癒の力で治すようなお優しい方なのに……それなのに、命を狙われて……」


「それに犬井家の動向も怪しい。城主が大病に伏している母親の命を救うために姫様の心臓を狙っているとの噂がある」


「うむ。そこで神刀の一族に駒の護衛を頼むことにした」


その決断に家臣達はどよめいた。


口々に議論を始める。


「そのような重要な責務を家の者以外にやらせるのはやめておいた方がいいのではないか? 裏切りの危険があるわけだし」


「それを加味しても、神刀の武力は魅力的だ。むしろ、他家に雇い入れられる方が危険だ」


そこに兼経がよく通る声で言った。


「神刀の一族とはもう話はついていて、数日後に月川城に到着する予定だ」


「殿! お待ちください」


「なんだ、正吉」


山中正吉が異議を唱えた。

山中家は代々亀山家を護衛する家系である。そのため、正吉も駒姫の護衛を任されていた。

家名に恥じない鍛錬の結果が着物で隠せない程にその筋肉に現れている。


「……私では不足ということでしょうか?」


「いや、そんなことはない。お前はよくやってくれている。ただ、不測の事態に備えたいだけだ」


「……承知しました」


正吉は頭を下げた。

彼の拳は畳の上で握り締められていた。

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