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血と愛は同じ赤色をしている  作者: 津崎新


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16

それは炎の龍が暴れているかのようである。その暴威に人は成す術なく蹂躙されるだけだった。


「ぎゃああああ!」


襲われた者は例外なく火達磨になった。


「怯むな! あいつの首をとれ! さすれば、東門を突破できる」


犬井家の武将の号令が戦場に響いた。


だが、武士達は後退りをしていた。顔には怯えの色が見える。


津波、嵐、噴火。人間ではどうすることもできない天地の怒りに立ち向かえと言われているようなものだった。


「進め。退くは武士の恥ぞ」


深みのある老熟した声がした。


武士達の顔から怯えの色が消えていく。


「先代は元気か?」


老将は気軽にその声で勘助に聞いた。


名を聞くまでもない。こいつが多田十兵衛か。老いをまるで感じさせない。一郎が唯一倒せなかったと言われても納得してしまうほどの凄みを感じる。


十兵衛がじりじりと間合いを詰めていた。


会話は動揺させて近付くための策か。


そうはさせないと勘助は炎の龍を放った。


龍は空を泳ぎ、十兵衛を喰らった。熱波が体を通り抜ける。炎で視界が遮られ、十兵衛の生死がわからない。しかし、いずれ燃え尽きるだろうと思っていた。


炎の中、何かが動いた。


勘助の瞳が大きく見張られる。


次の瞬間には十兵衛が炎を纏い、こちらへと突進してきていた。まるで炎を御したかのように。


どうやら、その衣で炎を受け流していたようだった。神刀を振い始めて、そのようなことをしてきた者に初めて出会った。


勘助は続けて炎の斬撃を何度も放つ。質より量の作戦だ。だが、全て受け流されてしまった。


「お前達の歴史もこれで終わりだ、神刀よ」


十兵衛がいつの間にか勘助の目の前に来ていて、刀を振りかざした。衣には炎が纏わりついている。


十兵衛は刀を振り下ろした。


それを勘助は神刀で受け止める。


二人は鍔競り合う。


「何故、亀山家の方を選んだ? 金払いが良かったからか? 今からでも遅くない。犬井家はもっと出すぞ」


「……最初は任務を果たすつもりだった。だが、駒姫は死ぬべき人間ではないと思っただけだ。そして、そのような人間の命を奪うために神刀の力があるわけではないと気が付いた」


亀山家の者たちは何故駒姫のために命を賭けるのか。


義信は何故母のために軍を動かすのか。


今なら少しだけわかる。守りたいのだ。生きていて欲しいのだ。神刀の力はそのように使うべきだろう。


神刀から炎が噴出した。伊与も勘助の想いに呼応してくれているようだった。


十兵衛は思わず怯む。


「その炎……先代のものよりも大きいな……一体、どれほどの愛を犠牲にしたというのだ」


十兵衛は後ろへと飛んだ。皮膚は焼けて爛れてしまっている。


「おい、神刀! お前は何の大儀があって、その力を振るっているんだ!?」


十兵衛は勘助へと問いかけた。


「弱き者達を守るためにだ!」


「ははは! 抜かしよるわ。お前は矛盾に気が付かない阿保だったとは」


十兵衛は刀を構える。だが、明らかに力が入っていない。次で勝負がつく。そのような確信があった。


「それにお前がいつ気が付くかの楽しみができたわ。先に地獄で待っておるぞ」


十兵衛は突進した。


それを勘助は一刀両断する。


十兵衛は燃え盛り、そして、倒れる。


十兵衛の最後の言葉は理解できなかった。己のどこか矛盾しているのだろうか。考えても、考えても、答えは出なかった。


その言葉はまるで蜂の毒針のようだった。突き刺された心はじわじわと熱を帯びていく。やがて、赤い腫れは徐々に膨らんでいき、勘助に大きな違和感をもたらした。


犬井家の武将は退却を命じた。十兵衛が敗れたことがよっぽど堪えたらしい。犬井軍は蜘蛛の子が散るように退却していった。


「えいえいおー!」


月川城で勝鬨が上がった。疑いようもなく、東門を巡る攻防は亀山家の勝利だった。


「神刀勘助!」


「見事なり!」


勘助を讃える喝采は止まない。


勘助に感謝する視線は途切れない。


「お師匠さーん、守ってくれてありがとーう」


弥太郎の母親も勘助に手を振っている。


勘助は満足げな表情で守られた城の様子を見た。

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