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一郎は宿場町の大通りを歩いていた。馬の手綱を持つ少年とすれ違ってから、小道に入り、裏通りへと向かっていく。
「ぎゃははは!」
道の真ん中には昼間から酒を流し込む浪人達がいる。
一郎はその隣を通り過ぎた。
「おいおい。俺達の横を通り過ぎるなら、通行料を払って貰わないとな」
酒瓶を片手に、真っ赤な顔をした浪人は呂律が回っていなかった。
一郎の眼光が刃のように浪人達を貫く。
「……なんだよ、冗談がわからないやつだな」
浪人達は興が削がれた様子で再度飲み直していた。
一郎は足早に歩いていく。
草履屋の前につき、一郎は最短距離で暖簾をくぐった。
店の中は薄暗く、どこか湿っぽい。ところ狭しと草履が棚に並んでいた。
「なんだい、また来たのか」
老人が椅子に座って煙草を吹かしていた。
白い煙は昇っていくにつれ、薄くなっていき、やがて消えた。
「文は届いているか?」
この草履屋は神刀の一族がここ数世代に渡って、依頼主や任務中の一族との文のやりとりをするために利用している場所である。
「そう頻繁に来られるとこちらも困るんだよ。お上に目をつけられたら、頭と胴がお別れしちまう」
老人は着物の帯に手を突っ込んで文を取り出した。
「でも、今日は届いていたよ。犬井家からの文だけどね。神刀勘助からの文はなかった」
「……そうか」
一郎は老人から文を受け取り、老人にお代として煙草を渡した。
用が終わったとばかりに一郎は足早に草履屋を後にした。文を読むために人気のない路地裏へと向かう。
勘助からの定期連絡が途絶えた。今までそのようなことはなかった。勘助の身に何かあったのではないか。
神刀の一族の掟に従い、幼い頃に拐ってきた、血の繋がらない他人とはいえ、勘助とは長く共に生きてきた。
一族を継いだ勘助には次世代へと繋いで欲しい。
一郎は元々孤児だった。戦で両親を亡くし、街の路地で野垂れ死に寸前だった。その時に一族に迎え入れてくれたのが先々代だった。
しかし、彼のことを覚えているのは、もはや一郎くらいだろう。だからこそ、一族の歴史を紡ぎ続けなければならない。そうすることで、彼の行いは未来へと残ることになり、彼への恩返しになることだろう。
そして、願わくは勘助にとって、一郎がそのような存在でありたい。
人気のない路地に来た一郎は犬井家からの文を読む。
待ち切れない。月川城を攻めるから手伝えとの旨が記載されていた。
時候の挨拶はなく、字が荒ぶっていた。義信は相当怒っているようだ。
勘助は月川城に潜入していたわけだから、何かあったのなら、そこだろう。ここは一郎も月川城攻めに参戦すべきだ。
一族を継いだ勘助のため、先々代の名誉のため、一族の汚名を晴らさなければならない。




