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第四話表: 我思う、故に

『楯の会』の演武会当日。中立地帯の広場は、異様な熱気に包まれていた。 広場の中央には急造の舞台が組まれ、周囲を軍服姿の若者たちが埋め尽くしている。彼らが放つ「熱狂」は、物理的な陽炎となって空気を歪めていた。


「ルネ、本当に行くの……?」


隣を歩くクリスの声が震えている。彼女は、ルネが拾われたあの日から大切にしていた喫茶店『カフェ・メソッド』の鍵を、お守りのように握りしめていた。


「行かなきゃ。三島さんは言ったんだ……来なければ店を壊すって。僕の居場所を、これ以上奪わせたくない」


ルネの足取りは、決して力強いものではなかった。膝は笑い、心臓は早鐘を打っている。それでも、彼は逃げなかった。


舞台の上には、上半身をはだけた三島由紀夫が、抜き身の日本刀を構えて待っていた。 彼の肌は黄金色に輝き、その背後には沈みゆく巨大な太陽の幻影が浮かび上がっている。異能【斜陽】。それは滅びゆくものの美しさを力に変える、絶対的なまでの「意志」の結晶だ。


「――来たか、空虚なる少年よ」


三島の声が響いた瞬間、周囲の熱狂がピタリと止んだ。 「貴様のその揺らぐ瞳。確信なき生。それが我らの『至高の情熱』に触れたとき、何が起きるか。……証明してやろう」


三島が地を蹴った。 速い。人間の動きではない。黄金の軌跡を描きながら、炎を纏った一撃がルネの脳頭めがけて振り下ろされる。


「ひっ……!」


ルネは目を閉じ、腕で顔を覆った。 (死ぬ。また僕は、すべてを失って消えてしまうんだ) (いや――)


その時、ルネの脳裏に、ミルが語った言葉が、そしてクリスが毎日作ってくれる温かいスープの匂いが去来した。


(あんなに温かいものが、嘘なはずがない。僕が感じたあの痛みも、あの熱も、僕が『感じている』限り、それは絶対にここに在るんだ!)


「僕は……僕は、ここにいる! 僕がそう思うからだ!!」


ルネが叫び、目を見開いた。 その刹那、三島の刀が、見えない「壁」に衝突して激しい火花を散らした。


キン、という高い音が響き渡る。 ルネの周囲数センチ。そこには、三島の【斜陽】の熱さえも浸透させない、完璧なまでに冷徹で強固な「真理の障壁」が展開されていた。


「何……!?」


三島の眼光が鋭くなる。 ルネの異能【我思う、ゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)】。 それは、彼が「疑い得ない真実」として確信した事象を、世界のことわりとして固定する力。彼が「自分はここに存在する」と、世界の誰よりも強く自覚した瞬間、彼の存在は宇宙で最も破壊不能な物質へと変貌したのだ。


「……面白い。貴様の『疑念』が、ついにダイヤモンドの如き『確信』へと昇華したか」


三島は愉悦に満ちた笑みを浮かべ、さらに激しく炎を燃え上がらせる。 だが、ルネはもう震えていなかった。 彼は自分の掌を見つめ、そこに通う血の温かさを、確かに感じていた。


「三島さん。あなたの美学が正しくても、僕の居場所を奪う理由にはならない。……僕は、僕であるために、あなたを拒絶する」


少年の透徹した意志が、狂熱の演武場を静寂で塗り替えていく。 それは、境界都市アクロポリスに新たな「理性の光」が灯った瞬間だった。

試験的にキャラクター紹介

ルネ(表の主人公)

名前 ルネ(モチーフ:ルネ・デカルト)

年齢 16歳(自称・記憶喪失のため推定)

所属 レパブリック (中立地帯 喫茶店「カフェ・メソッド」店員)

異能【我思う、ゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)】

能力説明 自分が「疑いようのない真実」だと確信した事象を、現実として固定する能力。自身への攻撃を「存在しないもの」として遮断したり、逆に自身の存在を「破壊不能」として定義できる。ただし、自身に一欠片でも「疑念」が生じると、その強度は著しく低下する。

好きな事 クリスが焼いたパン、ミルの哲学講義、静かな朝の掃除時間

嫌いな事 暴力的な大声、曖昧な返答、自分の記憶を覗こうとする視線

史実紹介 17世紀フランスの哲学者。近代哲学の父。「すべてを疑う」という方法的懐疑の果てに、疑っている自分自身の存在だけは否定できないという真理に辿り着いた。数学者としても著名で、座標系 (デカルト座標)の考案者でもある。


名前 三島 由紀夫

年齢 45歳

所属 楯の会(ナショナリズム陣営・総長)

異能 【斜陽】

能力説明 滅びゆくもの、散りゆく瞬間の美学を物理的な熱量と超人的な身体能力に変換する能力。黄金の炎を纏い、触れるものすべてを「清算」する。自身の生命力を激しく燃焼させるため、使用するほど肉体は炭化し、死へと近づいていくが、その極限状態において真の美しさと力を発揮する。

好きな事 鍛え上げられた肉体、古典演劇、夕暮れ時の静寂、美しい死

嫌いな事 醜い老い、論理だけの平和、妥協、偽物の正義

史実紹介 20世紀日本の小説家、劇作家。ノーベル文学賞候補に何度も名を連ねた天才。「楯の会」を結成し、1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地にて天皇を頂点とする日本本来の精神・国家への回帰を促す「覚醒」の呼びかけを行い割腹自殺を遂げる。肉体改造や執筆活動を通じ、生と死、美の極致を追求し続けた。


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