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第十話表:空の悪魔達

「……計算が狂い始めたな。アダム・スミスの『見えざる手』は、この不条理ナンセンスまで織り込み済みだというのか」


ハルトマンの冷徹な声が、揺れるフロアに響く。 レヴィアタン本社ビルの強固な防壁を突き破ったのは、物理的な爆弾ではない。それは、三島由紀夫が率いる「楯の会」の狂信的なまでの「死の美学」だった。


「…!何が起きてるんだ!?」


ルネが窓の外に目を向けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。 黄金の夕焼けを背に、一機の黒い翼――岩本徹三の搭乗機が、重力と慣性を無視した軌道でビルを周回している。彼が引き連れるのは、レヴィアタンが誇る無人迎撃機の群れ。しかし、それらは岩本の放つ異能【零戦虎徹】の領域に触れた瞬間、糸が切れた操り人形のように次々と火を吹き、空の藻屑となっていった。


「雑魚どもが……。魂の宿らぬ機械が、私の視界に入るな」


岩本の冷たい独白が、無線のノイズを伝ってビル内に漏れ聞こえる。桜の花が散るが如く敵機は地へと堕ちて行く。


だが、真の恐怖はその後にいた。 空を引き裂くような、悪魔の咆哮。ハンス・ウルリッヒ・ルーデルが操る急降下爆撃機が、高度数千メートルから垂直に、この最上階を目指して「落下」してきたのだ。


「墜ちる……! ぶつかるぞ!!」


「落ち着け、ルネ君。……私のカテゴリーに『衝突』という項目はない」


ハルトマンが右手を窓に。 彼の異能【価値の階層】が、突っ込んでくる機体を「生物」や「武器」から、単なる「静止した物質」へと定義し直そうとする。 しかし、ルーデルの異能【急降下爆撃】がそれを上回った。彼が受けている風圧、G、そして「敵対者の否定」という負のエネルギーを、ルーデルはすべて「破壊の確信」へと変換していた。


「――ぶち抜けえええええ!!」


ルーデルの咆哮と共に、機体がビルの特殊装甲に激突する直前、目に見えるほどの衝撃波が放たれた。 ハルトマンの「階層の定義」を力ずくで食い破り、機体は最上階のラウンジに突っ込んだ。爆発は起きない。代わりに、機体そのものが巨大な「楔」となってビルに突き刺さり、フロアを半分ほど圧壊させた。


噴煙の中から、義足を軋ませながら一人の男が降り立つ。全身に火傷と傷を負いながらも、その眼光は狂気的なまでに澄んでいる。ルーデルだ。


「……あいにくだが、私の『墜落』には終わりがないんでね」


「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル……。存在の階層において、君のような『自己破壊によって高次に至る』存在は極めて稀だ」


ハルトマンが、初めて僅かな敬意を込めて分析を口にする。 だが、その時、別の翼が風を切ってラウンジに飛び込んできた。岩本の【零戦虎徹】に守られた、小型の移送ポッド。そこから姿を現したのは、三島由紀夫その人だった。


「ルネ君! 君はこの資本の腐臭が漂う檻に居るべきではない!」


三島は軍刀を抜き放ち、ハルトマンとルネの間に立った。


「三島さん……! でも、僕はクリスを置いてはいけない!」


「案ずるな。このビルの維持システムは、今や岩本とルーデルの猛攻で崩壊寸前だ。クリス殿の命を繋ぐのは『数字』ではなく、我々の『決意』となる!」


ルネは、ハルトマンの冷たい「解剖」と、三島の熱すぎる「美学」の間に立たされる。 外では、アダム・スミスの仕掛けた「思想市場」の株価が乱高下し、街全体の物理法則が激しく明滅し始めていた。


「……面白い。ルネ君、君はどの翼を選ぶ? 私と共に、この現象を俯瞰し続けるか。それとも、あの死に急ぐ英雄たちと共に、炎の中に身を投じるか」


ハルトマンの問いかけが、ルネの心に重くのしかかる。 その時、ビルの遥か下層から、クリスの微かな悲鳴が、共鳴するルネの心に届いた。

名前 岩本 徹三

異能 【零戦虎徹】

能力説明 彼自身の愛機を中心とした「完全知覚領域」を展開。領域内に侵入したあらゆる攻撃の「軌道」を認識し、最小限の旋回でそれらを斬り伏せる。

好きな事 煙草、空戦、機体の整備、静かな夕焼け

嫌いな事 数の暴力、魂の籠もっていない機械、無意味な特攻

史実紹介,日中戦争から太平洋戦争末期まで戦い抜いた、日本海軍を代表するエース・パイロット。「最強の零戦乗り」と称される。戦後残された遺稿『零戦撃墜王』では、組織の硬直化や、熟練者の技術を無視した無謀な特攻作戦を激しく批判した。


名前 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル (Hans-Ulrich Rudel)

異能 【急降下爆撃】

能力説明 対象が「破壊不能」と信じている障壁に対し、垂直落下による加速度を「因果の重み」へと変換して叩きつける。自身が負傷・欠損しているほど威力が増す。

好きな事 牛乳、スポーツ、不可能への挑戦、出撃

嫌いな事 病院のベッド、臆病な撤退、共産主義、じっとしていること

史実紹介 第二次世界大戦におけるドイツの伝説的な爆撃機パイロット。戦車500輌以上、戦艦1隻 (共同とは言え化け物)を撃沈するという、個人の戦果としては空前絶後の数字を叩き出した。右足を失う重傷を負いながらも病院を脱走して出撃を続け、「最も多くの勲章を授与された軍人」となる。

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