表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/29

第九話裏:革命の偶像

地下の暗闇から引きずり出されたフリードリヒが連れてこられたのは、コミューンのプロパガンダ放送局を兼ねた、巨大な講堂だった。


「気分はどうだい、フリードリヒ君。君の顔色は、今のこの都市に必要な『絶望』の色をしている」


丸山眞男が、親しげに、それでいて計算し尽くされた距離感で語りかける。 フリードリヒは、拘束こそされていないが、四方を「自発的に」整列した武装兵士たちに囲まれていた。丸山の異能【作為の論理】によって、彼らは呼吸の一つまで統制され、一個の巨大な壁となってフリードリヒの逃げ道を塞いでいる。


「……見世物にするつもりか」


「見世物ではない。啓蒙だよ。アダム・スミスが始めたこの『最終選別』を勝ち抜くには、大衆に強力な火種が必要だ。既存の腐った価値観を焼き尽くす、君という純粋な『虚無』がね」


丸山は、放送用の巨大なモニターを指差した。 そこには、自分自身の「否定」の波動が街を浸食する様子が、劇的な音楽と共に編集され、革命の象徴として映し出されていた。フリードリヒの孤独さえも、丸山の手にかかれば「古き世界への挑戦」という安っぽい物語へと変換される。


「ふざけるな。……俺の絶望を、お前らの薄汚い革命に混ぜるな!」


フリードリヒが怒りに震え、異能を解放しようとしたその時。 講堂の重厚な扉が蹴破られ、戦場の硝煙を纏った男が土足で踏み込んできた。


「丸山! またそんな理屈をこねくり回しているのか。大衆に必要なのは言葉じゃない、前進し続けるための『血』だ!」


現れたのは、赤い外套を翻した男――レフ・トロツキー。 コミューンの武力執行機関「赤軍」のトップであり、常に戦場の最前線で「永久革命」を体現する、この組織のもう一人の顔だ。


「……トロツキー君。君の暴力はあまりに直接的すぎる。今は、この少年のイメージをどう社会に『分配』するかを話し合っているんだ」


「そんなものは事後に書記官にやらせればいい! ニーチェ、お前の『否定』の力、気に入った。お前の力は机の上で腐らせるもんじゃない。全戦線を永久に燃やし続けるための、消えない火種だ」


トロツキーの異能【永続革命パーマネント・レボリューション】が、フリードリヒの皮膚をじりじりと焼くような熱量で放たれる。 丸山が「冷たい作為」でフリードリヒを縛るなら、トロツキーは「熱い闘争」で彼を戦火へと引きずり込もうとしていた。


「……俺は、誰の旗印にもならない。丸山、お前の嘘も、……トロツキー、お前の殺意も、まとめて消してやる」


フリードリヒは二人を睨みつけ、自身の内側へと意識を沈める。 だが、アダム・スミスの「思想市場」が展開された今、彼の「否定」の出力さえも、大衆の支持率という数字に左右され始めていた。


「無駄だ、少年。今、君を望む声がこの街で最も高まっている。君が否定すればするほど、市場アダム・スミスは君を『最高の革命家』として定義し、その力を増幅させるだろう」


丸山の冷笑。 フリードリヒは戦慄した。自分が世界を拒絶すればするほど、世界がそれを「価値」として歓迎し、自分を逃がさない。 彼は今、かつてないほど巨大な「意味」の檻の中に閉じ込められていた。

名前 レフ・トロツキー (Leon Trotsky)

異能 【永続革命パーマネント・レボリューション

能力説明 周囲の人間の「闘争本能」を限界まで引き出し、疲労や恐怖を「前進するエネルギー」へと強制変換する。この異能が発動している間、配下の兵士たちは文字通り死ぬまで止まらない。

性格 情熱的で雄弁。静止や妥協を極端に嫌い、常に動的な破壊と創造を求める。丸山の「慎重な構築」とはしばしば対立する。

史実紹介 ロシア革命の指導者の一人で赤軍の創設者。スターリンとの権力争いに敗れ亡命したが、その「永続革命論」は世界中の革命家たちに多大な影響を与えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ