第六話裏: 鋼鉄の墓標
名前 ヨシフスターリン
年齢 40代後半
所属 コミューン(鋼鉄の槌鎌・最高指揮官)
異能 【大粛清】
能力説明 自身の周囲に、外部の物理法則や異能を一切遮断する「絶対統治領域」を展開する。この領域内ではスターリンの言葉が「唯一の法」となり、逆らう者は物理的な重圧や、精神的な「純化」を受けることになる。
好きな事 パイプ、統計学、地図の塗り替え、静寂
嫌いな事 異分子、裏切り、不確実な未来、無秩序な自由
史実紹介 20世紀ソビエト連邦の最高指導者。強力な権限を握り、急速な工業化と集団化を推進。一方で大規模な「大粛清」を行い、多くの政敵や市民を弾圧・処刑したとされる。
地下水道の泥水は、鉄と腐敗の味がした。 エリザベートの執着から逃れ、フリードリヒが辿り着いたのは、工場区の真下に広がる巨大な廃棄処理施設――通称『墓標』だった。
「……ハァ、ハァ……。ここも、地獄か」
フリードリヒは壁に手をつき、肺を焼くような煤煙に咽せた。 頭上からは、絶え間なく「ガシャン、ガシャン」という重機的な音が響いている。それは、地上の「祭典」で不要と判断された人間たちが、文字通り「資源」へと解体される音だった。
「誰だ。……許可なく、私の『書庫』に踏み込む者は」
暗闇の奥から、重厚なブーツの音が近づいてきた。 現れたのは、灰色の外套を羽織り、短く刈り込んだ髪に鋭い眼光を宿した男。その指先には、常に紫煙を燻らせる古びたパイプが握られている。
ヨシフ・スターリン。コミューン実行部隊の頂点であり、都市の「不純物」を物理的に消去する掃除役だ。
「……フリードリヒ・ニーチェ。お前がレヴィアタンで何をしたかは聞いている。だが、ここでは『価値の否定』などという贅沢は許されない」
「贅沢だと? ……笑わせるな。俺はただ、ゴミをゴミと呼んでいるだけだ。お前も、その椅子も、この腐った街もな」
フリードリヒは、震える手で自身の「否定」を練り上げる。 しかし、スターリンがパイプを一口吸い、煙を吐き出した瞬間、周囲の空間が「凍りついた」。
異能――【大粛清】。
フリードリヒの視界から、アクロポリスの景色が消えた。 そこは、冷たい吹雪が吹き荒れる、どこまでも続くシベリアの荒野のような閉鎖空間。スターリンが「不純」と断じた要素を一切排除したこの領域内では、あらゆる外部の理屈――神の死も、個人の意志も、その有効性を剥奪される。
「ここでは、私が唯一の現実だ。お前の虚無も、私の許可なく存在することはできない」
スターリンが手をかざすと、地面から無数の鋼鉄の鎖が飛び出し、フリードリヒの四肢を縛り上げた。 【神は死んだ】を発動しようとしても、スターリンの意志が「壁」となってフリードリヒの精神を押し戻す。個の否定を、組織という名の巨大な「断罪」が呑み込んでいく。
「ぐ、あぁ……っ!」
「お前は、少し『純化』が必要だな。エリザベートが欲しがるのも分かる。これほどの強力な『否定』は、組織に取り込めば最強の『粛清の刃』となる」
スターリンは、苦悶するフリードリヒの前に屈み込み、冷たい目で彼を見下ろした。 彼にとって、人間は魂を持つ存在ではない。目的に合わせて加工されるべき「素材」に過ぎないのだ。
「……俺を、飼えると思うな。……俺は、誰の、道具にも……」
「それは私が決めることだ。お前という『個』を消し、その能力だけを抽出する。……それがコミューンの等価交換だ」
フリードリヒの意識が、極寒の静寂の中に沈んでいく。 否定することさえ許されない、絶対的な「管理」。 彼は、かつてレヴィアタンで味わった「無関心な搾取」よりもさらに深い、「組織による魂の収奪」という最悪の地獄に直面していた。
遠のく意識の中で、フリードリヒは泥水を噛み締めながら、皮肉にもかつて自分を捨てた世界の「無秩序な自由」を渇望していた。




