第4話 冒険者育成学園
約半年が過ぎ、冒険者育成学園の入学式当日の朝。
いつも通り俺とセラはお父様が俺たちの成長の為に作ってくれた訓練場で鍛錬を行っていた。
その半年の間、一日も欠かさず鍛錬を続けた。
破滅エンドを回避するために、ひたすら強さを追い求めた。
主に体術や剣術の鍛錬を中心に行ってきたが、もちろん魔法の鍛錬も欠かしてはいない。
この世界で魔法を行使する際、詠唱が必要になる。
どんな手練れの冒険者だろうが、駆け出しの冒険者だろうが一つの例外なく詠唱が必要だ。
前世でこのゲームをプレイしていた時も色々な詠唱を覚えたっけ。
この世界の魔法の詠唱は、パターンが決まっており覚えやすいとまでは言わないが、詠唱を覚えるのにそこまで苦労しなかった。
魔法の詠唱は、『導入句+宣誓句+顕現句+魔法名』で構成されている。
どの魔法でもこのパターンなので覚えるまでに時間は掛からなかった。
「お兄様、この的に魔法を一発だけ放ってみてよ!」
「おう、任せろ。当てたら入学式に向かうか」
「うんっ!」
セラが訓練場内の的を用意してくれた。
この的に当てれなかったら、兄としての威厳が無くなってしまいそうだ。これは完璧に当てなくては。
掌を的に向け、詠唱を始める。
身体中を巡る魔力を掌に集中させる。
「【炎よ、弾けろ。我が敵を貫け】――【ファイア・バレット】!」
掌の前に小さな銃弾の形をした炎の塊。
魔法名を叫ぶのと同時にその炎の塊は、一直線に的へと放たれ、的のど真ん中を貫いた。
この魔法の詠唱が俺の知る中で一番簡単に覚えられる詠唱だ。
もっと大技の、魔力を多く消費するような魔法だと詠唱文も長くなるのだ。
因みにこの魔法――【ファイア・バレット】の場合だと、「炎よ」が導入句、「弾けろ」が宣誓句、「我が敵を貫け」が顕現句となっている。
このくらい短い詠唱だと戦闘中にも使いやすい。まあ、その分、威力は落ちるのだけど。
(これで兄としての威厳は保てたかな)
隣で見ていたセラは感心するようにパチパチと手を叩きながら嬉しそうに笑顔を見せていた。
「流石です、お兄様っ!」
「まあ、ファイア・バレットは簡単な魔法だからこれくらいはできるさ」
「それじゃあ、お兄様の魔法も見れたことだし、学校に向かいますかっ。これ以上ここに長居してしまうと入学式に遅れちゃう」
「それもそうだな」
早く馬車で冒険都市・ラビリオスに向かわないと。
初日から遅刻してしまっては変な目立ち方をしてしまうことになるからな。それだけは避けないとね。
俺とセラは小走りで馬車に乗り込んだ。
「お父様、またね」「長期休みに帰省するからね」
「うぅ~~~~~っ、体調に気を付けるんだよぉぉおおお」
「「はーい!」」
お父様は仕事があるためラビリオスまで送ることは出来ないらしく、執事が代わりに馬車を運転することになった。
お父様は見えなくなるギリギリまで号泣しながら手を振っていた。
♢
「着きましたよ」
執事の声で目を覚ました。
馬車の窓から外を見ると、多くの生徒が冒険者育成学園の冒険者向きな動きやすい制服を着ていた。
赤と黒の二色で染め上げられたその制服は、『火と影』を象徴しているのかもしれない。もしかしたら、危険に挑む冒険者の象徴として赤色は『血の赤』を意味しているのかもしれないな。
上衣は黒を基調とした軍服の様なデザインで、胸元と袖口に赤色のラインが走っている。見た目と機能性の両方を兼ね備えている考えられた制服である。
たしか、この制服は『簡易防具』のような役割を持っていたはず。
この辺りは曖昧な前世の記憶だ。
前世でゲームをプレイしていた時も、制服についてはそこまで詳しく調べたりしなかったからな。
「さ、お兄様、行こっ」
「おう」
セラに手を引かれ、馬車を降りて、巨大な学園の門をくぐった。
周りの視線が俺とセラに集まる。
「アーネット家の令息と令嬢だ!」
「凄く品格を感じるよなぁ」
「貴族の見本のような一家だよな。俺たちも見習わないと」
注目されてしまうのはゲームをプレイした経験から分かっていた。
アーネット家は貴族の中でもかなり高い地位についている上級貴族だ。
だから、他の貴族からも視線が集まっているのだろう。
「それに比べてアイツは品格が無いよなぁ」
近くにいた生徒の一人がそう呟いた。
その視線の先には、見知った顔があった。
周りからの視線を気にしないように下を向きながら歩いている。
貴族の生徒たちから白い目で見られているその茶髪の少年は、『ラビリンス・デスティニー』の主人公――レオン・ヴェイルだ。
「なあ、セラ。どうする?」
「お兄様に任せるよ」
「分かった。それじゃ、話しかけに行こうか」
「うんっ!」
破滅エンドを回避したいのなら関わらない方が良いと考える人もいるかもしれないが、俺はそうは思わない。
原作の俺たちはレオンに対して酷い行いをし続けたから破滅という結末を迎えたわけで、レオンと仲良くなればそんな未来もなくなるだろう。まあ、あくまで俺の推測に過ぎないわけだが。
というか、単純に友達になりたいんだよな。
俺とセラは周りの貴族たちの視線を無視して、レオンに声を掛ける。
「ちょっといいかな?」
声を掛けた瞬間、ビクッと肩を震わせ、怯えた表情で俺たちのほうを振り向いた。
こういう反応をされるのはショックだが、仕方ない。
平民であるレオンにとって貴族は、平民を馬鹿にしてくる者という認識だろうから。




