鱗粉
頑張って一ヶ月に一本書こうと思っていたのに、前回上げたものから半年くらい経っている件…
勘弁してくれ。
部屋の壁にへばりついている、
地味な色の不気味な羽をみて俺は項垂れた。
蛾である。
そいつが俺の部屋の壁に、
羽を広げてくっついているのである。
一体どこから入ってきたというのだろうか。
まさか、家のどこかにあった蛹が羽化したとも思えないし……。
それにしても、蛾という名前はいけない。
名前からして、不潔である。
かつて、こんな話を聞いたことがある。
蝶と蛾というのは本質的に同じ虫である、
しかし、蝶と蛾の区別がつかないと色々と具合が悪いので、人の好む綺麗な模様の美しい虫を蝶と、人の嫌う禍々しい模様の不気味な虫を蛾と呼び、区別しているのだ、と。
この時は笑った。
確かに蝶と蛾とを区別する言葉がなかったら一大事だと思った。
何せ、蛾には花がない。ロマンがない。
実際、目の前にいるそいつも、
身動ぎ一つせず、じっとしている。
地味である。
俺は生まれながら、嫌われ者の烙印を押されたこの虫に心底同情した。
さて、宙を舞う虫がとことん苦手な俺であったが、
このままにしておくわけにもいくまい。
意を決して、おそるおそるそいつに手を伸ばす。
外に放り出してやろうという魂胆だ。
「ワァッ!」
そいつはパッと羽を羽ばたかせると、奇妙な動きで部屋の中を舞う。
「野郎、タダではおかないぞ」
10分余り蛾と格闘するも、
ついに人の手の届かない、物と物の隙間に隠れてしまった。
ため息をつく。
「ま、じきに出てくるだろう」
俺は布団に入って、ぐぅぐぅ眠ってしまった。
* * *
翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日の中を
一匹の蛾が舞っていた。
光を反射した鱗粉が、キラキラと輝いている。
俺は頭をポリポリかいた。
窓を開けてやると、
そいつは相変わらずの奇妙な動きで、外の空気に誘われていった。