表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

鱗粉

作者: 春野 椿

頑張って一ヶ月に一本書こうと思っていたのに、前回上げたものから半年くらい経っている件…

勘弁してくれ。


部屋の壁にへばりついている、

地味な色の不気味な羽をみて俺は項垂れた。


蛾である。


そいつが俺の部屋の壁に、

羽を広げてくっついているのである。


一体どこから入ってきたというのだろうか。


まさか、家のどこかにあった蛹が羽化したとも思えないし……。


それにしても、蛾という名前はいけない。


名前からして、不潔である。


かつて、こんな話を聞いたことがある。


蝶と蛾というのは本質的に同じ虫である、


しかし、蝶と蛾の区別がつかないと色々と具合が悪いので、人の好む綺麗な模様の美しい虫を蝶と、人の嫌う禍々しい模様の不気味な虫を蛾と呼び、区別しているのだ、と。


この時は笑った。

確かに蝶と蛾とを区別する言葉がなかったら一大事だと思った。


何せ、蛾には花がない。ロマンがない。


実際、目の前にいるそいつも、

身動ぎ一つせず、じっとしている。


地味である。


俺は生まれながら、嫌われ者の烙印を押されたこの虫に心底同情した。


さて、宙を舞う虫がとことん苦手な俺であったが、

このままにしておくわけにもいくまい。


意を決して、おそるおそるそいつに手を伸ばす。


外に放り出してやろうという魂胆だ。


「ワァッ!」


そいつはパッと羽を羽ばたかせると、奇妙な動きで部屋の中を舞う。


「野郎、タダではおかないぞ」


10分余り蛾と格闘するも、

ついに人の手の届かない、物と物の隙間に隠れてしまった。


ため息をつく。


「ま、じきに出てくるだろう」


俺は布団に入って、ぐぅぐぅ眠ってしまった。


* * *


翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日の中を

一匹の蛾が舞っていた。


光を反射した鱗粉が、キラキラと輝いている。


俺は頭をポリポリかいた。


窓を開けてやると、

そいつは相変わらずの奇妙な動きで、外の空気に誘われていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ