表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Virtual Re:Link 〜レバニラ炒めを添えて〜  作者: 獬豸
第三章:レバニラでつながる世界
59/60

第59話:ラストレシピ

 イベントから数日が経った。


 配信が終わっても、SNSでは今も「#レバニラReLink」がトレンド入りを続けている。ファンアート、実況まとめ、料理再現レポ……どれも、私たちが歩んできた軌跡が詰まっていた。


 私はスマホを置き、ゆっくりと深呼吸をする。


「さて……本当の『最後のレシピ』、始めようか」


 その日の夜、私は一人で小さな台所に立っていた。照明を少しだけ落とし、BGM代わりにいつかの配信を小さく流す。澪の声がスピーカー越しに響いて、胸の奥がじんと熱くなった。


「橘ちゃん、焦がしちゃダメだよ〜!」


 そんな言葉が、まるで今ここで言われたかのように鮮やかだった。


 材料はシンプル——レバー、ニラ、そして『あのソース』。だけど、今日は何かが違う。いつも通りの手順なのに、手の動きが少しぎこちなく、でも一つ一つを大切に扱っている自分に気づく。


 油を注ぎ、フライパンがじゅっと鳴った瞬間、記憶が一気に溢れ出す。

 澪と初めて二人で料理配信をした日、盛大にレバーを焦がしたこと。

 ファンから「それも味のうち」と言われて、なぜか自信が湧いた夜。

 あれから、たくさんのレバニラを作ってきた。


 でも、今日のレバニラは、たった一皿。

 私だけのために作る、初めてのレシピ。


 皿に丁寧に盛りつけ、テーブルに運ぶ。一人分の、レバニラ炒め。


 黙って箸を取り、ひとくち。


「……うん、まだちょっと濃いかも」


 思わず笑ってしまった。きっと澪なら、同じツッコミを入れるだろう。

 でも、それでいい。そう思える味だった。


 食後のテーブルに頬杖をついたまま、私は少しだけ目を閉じる。


 ひとりぼっちの夜のはずなのに、不思議と寂しくなかった。

 静けさの中で、私は確かに“つながっている”感覚を味わっていた。


 ふと、スマホが震えた。


《見たよ、今日の夜ごはん。#レバニラReLink またバズってる》


 澪からのDMだった。


《今度、一緒に作らない? オンでも、オフでも》


 私はすぐに返信した。


《いいね。今度は、もっと薄味で。あと、今度はデザートも一緒に》


 短い沈黙のあと、返事が来た。


《それ、約束。》


 画面を見つめたまま、私は小さく頷いた。

 画面越しに、たしかに澪の気配を感じた。


 夜風がカーテンを揺らす。私は窓を少し開け、ひんやりとした風を頬に受けた。


 遠くで電車の音が聞こえる。

 あの日も、こんな夜だった。


 私はスマホを置いて、レバニラをもう一口頬張る。


 ひとりで作ったはずなのに、なぜか味が、少しだけ優しくなっていた。


 明日が来ても、きっと私はまたこの味を思い出すだろう。


 澪と一緒に炒めた日々を、胸にしまって。

カクヨムで投稿しております。

よろしければ読んでいただき、評価していただけるとありがたいです。

https://kakuyomu.jp/works/16818622171293154777

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ