第五話:レバニラの誘惑
Vtuberとしての活動を始めてから、もうすぐ一年が経とうとしている。
「お疲れ様です!」
事務所の扉を開けると、先に来ていた同僚の澪が振り向いた。
「橘ちゃん、お疲れ! 今日は何の打ち合わせ?」
「新しい企画の話があるって言われて……澪は?」
「私も! もしかして、コラボ案件かな?」
二人で並んでソファに腰を下ろし、雑談をしながらマネージャーを待った。澪とはデビュー時期が近いこともあり、何かと一緒に行動することが多い。最初はお互いに気を遣っていたが、今ではすっかり気楽に話せる間柄になった。
「そういえば、昨日の配信観たよ。料理企画、めっちゃ面白かった!」
「え、ほんと?」
「うん、でもさ……橘ちゃん、料理の腕は壊滅的だね(笑)」
「うっ……否定できない……」
昨夜の配信で、私はチャーハンを作る予定だった。が、結果は焦がした卵と硬い米の混ざった代物。リスナーには大ウケだったものの、恥ずかしさでいっぱいだった。
「でもさ、次はちゃんとした料理、作りたくない?」
「そりゃあ、できるなら……」
「じゃあさ、私が教えてあげるよ! せっかくだし、一緒にレバニラ炒め作ろうよ!」
「……なんでレバニラ炒め?」
「美味しいし、栄養満点だし! それに、ちょっとしたネタになるじゃん?」
澪のノリの良さにはいつも振り回されてしまう。とはいえ、ここで断るのもつまらない。
「……わかった。じゃあ、よろしくね?」
「任せて!」
こうして、私たちのレバニラ炒めプロジェクトが始まった。
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翌日、澪と一緒にスーパーに行き、材料を買い揃えた。
「レバーは新鮮なのを選ばないとね!」
「う、うん……レバーって、なんか生々しくてちょっと苦手かも……」
「大丈夫大丈夫! ちゃんと下処理すれば臭みもなくなるから!」
澪は手慣れた様子でレバーを選び、ニラやもやしもカゴに入れていく。こういうとき、彼女のしっかりしたところが頼もしく感じる。
事務所のキッチンに戻り、いよいよ調理開始。
「まずはレバーを牛乳に漬けるよ!」
「牛乳?」
「そう、臭みを取るため! あと、ニラはザク切りにしておく!」
澪が手際よく進めていくのを見ながら、私は言われた通りに包丁を動かした。
「橘ちゃん、意外とちゃんとできてるじゃん!」
「そ、そうかな……?」
「うん! じゃあ、いよいよ炒めるよ!」
フライパンに油を熱し、レバーを投入すると、ジュワッと音を立てて香ばしい香りが広がる。続けてニラともやしを加え、特製のタレを絡めると——
「できた!」
「おおっ、すごい、それっぽい!」
「じゃあ、試食タイム! いただきまーす!」
箸で一口食べてみると、レバーの濃厚な旨味とニラの香りが口いっぱいに広がった。
「……美味しい!」
「でしょ!? これで橘ちゃんもレバニラマスターの仲間入り!」
そうして、私たちのレバニラ炒め配信が決まった。
配信当日。
「みんなー! 今日は橘ちゃんと一緒にレバニラ炒め作りまーす!」
澪の元気な声が響き、チャット欄も盛り上がる。
「レバニラ!? なんで?ww」「橘ちゃん、料理大丈夫?(フラグ)」「百合レバニラ、尊い……」
こうして、私と澪のVtuberとしての新たな挑戦が始まった——。
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