第三十八話:料理スキルの現実と試作会
企画の方向性が決まり、企業側との調整も進み始めた。私たちは事務所のスタジオで試作を兼ねた料理練習をすることにした。
「それじゃあ、今日は試作会ということで、それぞれ作ってみましょう!」
澪が意気込んでエプロンをつける。私と柚葉もそれにならい、提供予定の食材を前に腕をまくった。
「実際に料理配信をするなら、ある程度のクオリティは見せないとね!」
「う、うん……。まあ、やってみよう!」
私は自信満々に包丁を握ったが——五分後には、その自信が粉々に砕け散ることになる。
「……奈央、玉ねぎがすごい形になってるけど、大丈夫?」
「えっ、これ……ダメ?」
私はまな板の上の玉ねぎを見下ろした。完璧に均等に切るつもりだったのに、なぜかバラバラで不揃いな形になっていた。
「いや、包丁の使い方が独特すぎるんだけど……」
澪が苦笑しながら、私の手つきをチェックする。
「そもそも押しつけるように切るんじゃなくて、包丁を滑らせる感じで動かさないと……」
「ふむふむ、なるほど……」
改めて、包丁の持ち方を正しながら慎重に切る。なるほど、少しはましになった気がする。
「柚葉はどう? 上手くいってる?」
「う、うん……まあまあ?」
ちらりと横を見ると、柚葉はフライパンの前で固まっていた。
「……これ、火、強すぎない?」
見ると、フライパンの底に黒い焦げが広がり、レバニラ炒めのニラがしんなりを通り越してカリカリになりかけていた。
「ぎゃー!! 待って待って、火、止める!!」
柚葉は慌ててコンロの火を消し、ため息をついた。
「料理、普段からやってるんだけど……配信用に見栄えを意識しようとすると、意外と難しいね」
「うん、やってみるとわかるけど、料理配信って思った以上に技術がいるね……」
私は苦笑しながら、レバニラ炒めのフライパンを混ぜた。何とか形にはなったものの、理想の仕上がりには程遠い。
「……よし、試食してみようか」
できあがった料理を皿に盛り、三人で向かい合う。
「いただきます!」
一口食べると、思ったより味は悪くなかった。ただ、火加減の問題なのか、レバーが少し硬く、ニラの風味も飛んでしまっている。
「うーん、悪くはないけど、もっと美味しくできそう」
「レバーの下処理とか、ちゃんと考えないとダメかもね」
澪がスマホでレシピを見ながら、改善点をメモしている。
「料理スキル、もうちょっと鍛えないとダメかもね……」
柚葉が肩を落とす。私も同じ気持ちだった。
「でも、逆に言えば、こういう試行錯誤を見せるのも面白いかもしれないよね?」
「確かに! 『成長型料理配信』ってことにすれば、リスナーさんも応援しながら楽しんでくれるかも!」
前向きなアイデアが浮かび、私たちは再びやる気を取り戻した。こうして、料理スキル向上を目指しつつ、企画の実現へ向けてさらに動き出すことになったのだった。
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