国宝は取り扱い注意
お読み頂き有難う御座います。
思わず村の食堂に微妙な空気が漂ってしまったわ。魚を食べ終えて赤ベリーケーキに掛かりつつあるのに、喉が詰まりそう。消化に良さそうな林檎のゼリーとかが良かったわね。シーズン的に微妙だけど。
「ヴィーアちゃん……。お見合いが破談なのか?」
「まあ、都会的イケメンだもんね……。きっと頭デッカチなヴィーアちゃんとお話合わないんだよ」
「都会のイケメンとお見合いとかいいなー。何処住みなんだろ?」
「あれ、滅茶苦茶凹んでるぞ、あのイケメン。
まさか、ヴィーアちゃんが振ったのか。やるなー」
「よっ、村一番の才女!」
違うし!
コソコソ声が大きすぎて悪口諸々聞こえとるわ!!
あっ、何時の間にか、食堂に村中の暇人が集まってない!?
そんなデマは止めて頂きたいわ!
私は、貴族にパワハラ無茶振りされてるただの村娘なの! 田舎は声が大きくてやんなるのよ! 私も声大きいけど!
「本当に、手段は……」
美しい瞳で見つめないで欲しいわ。フィールデン次官様の瞳って、幻の青ベリーに似てるわねえ。見つかったら宝石並みのお高すぎる値段で取引される、滅茶苦茶美味しい実……。
ウチの敷地内に幻の青ベリー見つかって一攫千金出来ないかなあ。でもあの実、物理的に光りすぎて、余所んちだろうが直ぐ見つかってパクられるのよね。田舎の闇だわ。かと言って屋内では熟さないし……。
「無くもない、ですけど」
「本当か!?」
……はっ! しまった!
幻の青ベリーで金策したい気持ちで、心を騙していたのに!
イケメンがションボリしている様に見惚れて、ベタに口を滑らせた!!
ヴィーアの強い心よ、カムバック! 大雪の日に靴が破れて凍傷になりかけても挑んだ受験を思い出して!
「流石、英雄の姪ヴィーア嬢。貴女の慈悲に感謝を」
「えーゆ?」
「エー油って何だ?」
「都会の油メーカー?」
「風呂屋? ええ湯なのかもよ」
「ヘェイおばちゃあん! スピーディーにお会計お願いーーー!」
近所の皆さんが聞き耳立てる中、英雄英雄と気楽に言うな、と言っとるだろうが!! 休暇に戻ってきた時、変な渾名で呼ばれたらどうするのよ! でも、村の人達が聞き違ってくれて良かった!
私と英雄なんて結びつけられもしないもんね! 何だか腹立つけど助かった!
「すまない……」
「わ、わざとではないでしょうね!?」
「ち、違う。つい口から出てしまったんだ」
くっ、ポンコツ加減を見せても絆されんからな! 私は、無理難題イケメンのギャップ萌えで、チョローく自爆なんて、しないんだから! 私は平和に留学するの!
「他に、話ができるところは有るだろうか」
「あ、有るように見えますか……?」
……見渡す限り、畑と田舎道と森なのよね。この辺は。何だか雨も降りそうだから、森で立ち話も出来やしないし、ベリー摘みの村人がジャンジャン来るし!
しかし、他に話し合う所など有りもせず……。観光地でもないから、心地よい喫茶店もなく……。
……結局、足の踏み場は……無限収納よりは未だある我が家にご招待する羽目に……。
「それで、何をどうやるのだろう」
足がガタガタしてるから棄てようと思ってた椅子に、不似合いなイケメンが座ってる……。バランス取りづらそう。
……うええ、早く追い出してお片付けしたあい。
若い娘である私の家に、イケメンを引っ張り込んだなんて……。噂になったらどうしよう……。
実は、浮いた噂になりたいけど……なーんて!
まあ、現実とっ散らかってるから、全くムードもロマンスも無いのが何だかもう……。色々複雑過ぎる。
「ヴィーア嬢」
「……お片付けは、要らないものを棄てるのが鉄則です……。先ずは、物を出して棄てる。それを繰り返せば何とかなるかと」
「成程。……無限収納の中身を他の場所へ出し、棄てて、国宝を探すと」
「結構な労力ですよ?
ゴミを燃やして、灰を埋める手段も場所も必要ですし」
「国境付近に荒れ地がある。あそこならどうだろうか」
どうだろうかと言われても。
ナチュラルに私が助力する流れになってるけど?
私は、とっても直ぐ速やかに隣国へ留学するんだっての。
助力は無理だから、早く他の方にお任せする案を捻り出して、とっとと隣国に退散したいわ。何か思いつかなきゃ……!
「あの、フィールデン次官様。私は相続人を辞退する話でしたよね? 例えば叔父に子供さんは居ませんか? 古代闇魔術の素質が引き継がれていたりなんかは」
「僭越ながら、私は土魔術と火魔術にも少し造詣がある」
聞けよ。
でも、何ですって?
人命を3分コーティングしか出来ない古代光魔術なんかより、そっちの方がお役立ちで重要じゃない。ゴミは燃やして埋めりゃいいんだから!
ちょっと話は違ってくるかも!
どうせあんなホコリまみれのゴミだらけ無限収納なんて、国宝以外くだらない物しか入ってないんだから! ゴミは燃やすに限るわ!
灰の中から国宝を探せばいいのよ!
でも……。
はあー、出す為には結局手を貸さなきゃならないのかあ。
何とか手っ取り早く出来ないかなあ。手っ取り早く……。そうだわ!
「では、私が入り口を開けるので。素早くババーッと火魔術で中身を焼き払う! それでどうでしょう!」
「国宝は婚礼用衣装とヴェールなんだ」
……燃えない国宝が良かったなあ。
伝説の剣とか盾とか熱に強すぎる宝石とか。
というか、ゴミ山の中に埋もれたドレスってどうなの? まさか洗って誰か着るの?
無限収納中の今は色移りとか臭いとかは移らないけど、出したら間違いなく異臭と汚いカラーでミラクルチェンジするわよ。
そんな即棄て品をどうやって洗濯するのかしら。プロの洗濯手段が有るんでしょうけど……。
ゴミの中に埋もれてた時点で、私なら着る気しないわ。王族も大変ね。
お高い服の保存は大変です。