ウチの没落過程をお話します
お読み頂き有難う御座います。
今日は2回続けてお送りします。順番をお間違えのないようお気をつけくださいませ。
「……英雄マロロ殿は」
「あ、こんなド田舎でアレを英雄とお呼びするのはお控えください。アレは絵本の中のお話ヒーロー(笑)みたいなものなので」
「辛辣だな」
そりゃ、辛辣にもなるわよ。今までのシチュエーションで何故心穏やかになれるのやら。
ああ、眼の前で湯気を立てる白身魚のバターソテー柑橘ソースが芳しい……。
……結局引っ越し作業で疲れてたから、食べて飲まざるをえなかった奢りご飯……。
……ナチュラルにご飯を楽しんでイケメンを眺める都会的な空間として、今までのお話を無かったことにしたいわ。
村の食堂だから慣れてる味で有り難いけど。
「君の知るマロ……叔父上殿について、素直な意見を聞かせてくれるか」
「……敬称を付けるまでもない下衆な叔父は、子供の頃。無限収納というスキルを無理矢理発現したと聞いてます。
とても何と言うか、子供の頃は怠け者で破天荒な方だったそうですわ」
「……英雄だからか。常人と違うところが有ったようだな」
成程ー。ものは言いようね。多分、大人になっても変わらず……だったんでしょうね。
誰だって怠けられるものなら怠けたいし、片付けも嫌いだし、勉強なんてやりたかないわ。私だってそうよ。でも、生きる為に仕方ないもの。
「叔父は、子供の頃から致命的にお部屋を片付けられないのです」
「確かに、王宮で侍女が嘆いていたな」
……えっ、まさか王宮に間借りしてたの? とんでもなく図々しいな、あのオッサン……。しかも借りてるお部屋汚すなんて、酷いにも程がある居候だわ……。
いやもう遺産の話だから、死んで立ち退いたんでしょうけど迷惑だなあ。お片付けしてくれる縁切ってない身内……。薄幸の妻子とか、居なかったのかしら。妻子は嘗て濃い幸せ者だったのかもだけど。
「……幼少時は貴族でしたから、服や寝具の片付けは侍女がしてました」
「清潔に過ごせていたのか……」
「汚いお部屋でも、掃除洗濯はしてくれてたでしょうし、ある程度はそうだったんでしょうね」
まー、ウチは誰かさんのせいで没落した今、お家を綺麗にキープしてくれる侍女なんて、雇え無いんですけどね。
あー、私も他人様に任せて貴族的なお引越ししたい……。此処最近の梱包作業と手続きで5歳くらい老けた気がするわ。
くっ、まだ若いのに……。
「だけど、手紙や細々としたものは部屋の主人の許可が必要ですからね。机には手を出さなかったそうです。
でも、何処から持ってきたのか不明な菓子の包み紙、買い与えたことのない粗悪な武具、破れた古い服……。
そんなゴミを見かねて棄てても棄てても、机に地層のように積み重なっていたそうで」
「……」
そんなドン引きされてもなあ。王宮の間借り部屋も似たようなものだったでしょうに。
リアルに汚いお部屋を目にしてないのかしら。私に持ってきたのが難題だと実感湧くから、確実に見ておいて欲しかったわ。
「……町へお忍びで出た時に仕入れていたのか? そのゴ……小物を」
「多分そうでしょうが、限度があります。
嘗ての我が子爵家の規模がどうだか存じませんけど。途方もない量だったと父が嘆いてましたよ」
叔父は祖父に叱られたあと、姿を眩ませたのよね。そして、きれいさっぱり部屋の中身が消えていたそうよ。何故かドアと窓枠まで。
しかも何と! 食糧庫の中身や、金庫までパクりやがったのよ。
勿論当時届けは出したそうだけど、戻って来ず。でも、家財を馬車で運ばずに叔父はスキルの中に詰め込んだ……らしいわ。
根っからのコソドロ気質なのよ。
ってことは、ゴミ屋敷の中に、我が子爵家のアレやコレが!?
……まあ、叔父の性格を見抜いてたから、金庫はフェイクで中身は砂だったらしいけどね。
流石実の親ね。お祖父様、ファインプレーよ。
「それで、何故未だ叔父が崇め祀られる立場に?
ギャグハーレム? とやらで娶られた御婦人方との多重婚で罪人になったんですよね?」
「ギャグでなく逆だ」
「……くっ、知らない単語でしたので、言い間違えました。その重婚で娶られた御婦人方に遺産は遺されたのでは?」
「開けられないから、姪御である君を訪ねてきたんだ」
この無限収納を遺されたのは、身内でなければ開けられないからかー。
まあ、古代闇魔術の使い手なんてそうそうホイホイ居ないわよね。大した技能でもないのに。
しかし、叔父め。何で重婚したお嫁さんに解錠手段持たせないのよ。そっちで解決してよね。
でも、ジトッとした目で見てもイケメン動かざること山の如し。……困ったなー。根負けして帰って欲しいなー。
「この腕輪なんだ」
「……何だか傷だらけで安っぽ……壊れてますね」
見ろと言わんばかりに、安テーブルの上にコトリと置かれた古い腕輪……。
多分宝石が入ってたぽい窪みは歪んでるし、無理矢理ねじ切られたみたいな跡もあるわ……。色が違うところはメッキの剥げかしら。
恐らく何かのパチモノな似非豪華な腕輪だったんでしょうね。クズ金属回収なら二束三文で買い叩かれるタイプね。趣味悪いし。
「ま、まさか入口も壊れているのか? 見てくれ」
「……まあ、コレを媒介に収納に繋げる役割だけだから、こんなの無くてもまあ……」
「流石だな! 隣国の魔導学園に3位で入学した頭脳の持ち主だ」
……何だと……。3位とか知らなかったわよ。何勝手に成績ネタバレしてくれてんのこの人。デリカシーのなさは中々ね。地位が有るの誇示したいんだか知らないけど、勝手に見て欲しくないわ。くっ、悔しい!
「どうだろう、見えるか?」
……しかも、何だか収納の中を見る流れになっちゃったじゃない……。うええ、やだなあ。
「……うわっ」
疲れてるのに……。集中して魔力を練って、腕輪の隙間から覗いてみた程度だけど……。
えっ、暗っ! 薄暗! 闇魔術ったって収納なんだから中の暗さくらい加減出来るのに、アホなの!?
ええと……面倒臭いけど目を凝らして……うう魔力を目に宿すと滅茶苦茶目が疲れる……。目薬欲しいなあ。
……えーと、あの塊は何? あー、あっちはこの中歩いたら死ぬわって位、物がうず高く散乱してる! こっちは、床? が落ちてる物で覆われて見えない!
国宝どころか元からの我が家の物を探すにも、ガラクタとゴミが多すぎてお話になりませんってのよ。
……コレ、どーすんのよ。
掘っても掘っても出てくるタイプです。




