遺産は良いものばかりじゃない
お読み頂き有難う御座います。
「……フィールデン次官様?」
「……」
気の毒にとは思うのよ? イケメンエリートなのに。何でこんな田舎の小娘の説得を、こんなイケメンエリートにさせちゃうのかとか。
「縁を切った親戚のゴミ屋敷の掃除のご経験は、お有りで?」
「……無い」
見るからに貴族のご令息が、そんなの有る訳無いわよね。上背が有るから、力仕事はそんなに不得意そうではないけど。私も無いわよ。常識的なお片付けならまだしも、迷惑を掛けられて縁を切った親戚って時点で、一生やりたくないわ。
そういや、此処の村ではご近所付き合いが密だからねえ。
ご不幸のあった独り身の方のお家を、ガメつい盗人いえ、ご近所さんが自主的にお片付けしてあげて金目の物を総ざらいしたとか、騒動になってたわ。
都会も物騒らしいけど、田舎も田舎で怖すぎるのよ。縁は縁で怖いものよね。
「そうですよね。私も嫌なので御免被ります」
「……開けるだけでも良いんだ」
「間違いなく異臭がしそうで、嫌です」
私の属性……。古代闇魔術ってねえ。名前はカッコいいんだけどねぇ。
主に……収納に特化してはいるんだけど……滅茶苦茶扱いに困るから……。
ぶっちゃけ、使い手も僅か……と言うかウチの一族のみで、滅茶苦茶使い難いのよね。
確かに、古代闇魔術を利用した収納の中にあるだけなら、その物の時を止められるわ。
でも、長年放置した収納を、いざ必要だと開けて取り出した途端……物体の時が極端に動き出すの……。無機物でも普通に錆びたり砂になったりでよくても傷んでるし、ナマモノなんかだと……恐ろしいことに確実に眼の前で腐りゆくの。
ドロドロと腐臭付きで溶けてゆくのよ……。嫌すぎでしょ。
だから、ナマモノの保存魔術は氷を作れるタイプの水魔術がいいのよ。常識の範囲内で使おうって思えるでしょ? 土魔術を組み合わせて地下に氷部屋を作っても良いわね。
複数属性持ちで、コントロール出来る人なら、古代闇魔術なんてねー。
でも、理想はそうなんだけど、中々居ないのよ。
そんな繊細な魔術使える魔力チートは。まあ、闇魔術使いも中々居ないけどさ。
まあ兎に角。水も土も操れない凡人古代闇魔術使いの私の収納レベルは……せいぜい箪笥(小さいサイズ)に詰め込める程度なのよね。
親戚も似たようなものよ。
だけど叔父は……それこそ、『無限収納』って呼ばれるレベルらしいのよ。
でもねえ。奴は片付けられない男国内最強だと父が言ってたわ。整理整頓なんてスキルは全く無いの。無限収納なんて、真っ暗くて広大なゴミ屋敷と化したでしょう。せめて探索スキルでも有れば、必要なものを直ぐに取り出せたりしたんじゃないかしら。
……出せもしない物ばっかりで、どうやって生活してたのかしらね。手の届く範囲の物だけかしら?
しかし、叔父は死んで……。何処に詰め込んだかも分からない国宝が必要となったみたいよね。何で渡したのよ、不用心過ぎでしょ。お気の毒だとは思うけど。
でも私は近々留学する身の上で、危険物が飛び出してきそうな扉を開けろそして探せ、と迫られているの。嫌よ。
無理だ。諦めろ。
ちゃーんとその意味を込めて、親切丁寧コンコンと説明したわよ。
「……取り敢えず、外で食事でもどうか」
「私、留学の為に至急荷物を送らないといけないので」
何事もなかったかのように、儚げナチュラルに微笑んでも騙されないわよ。田舎娘として暮らして長いけど、図体のデカいイケメンに絆されるものですか。そして相続もするもんですか。
カッコよくないタイプの古代闇魔術です。