荒地は静かに佇む
お読み頂き有難う御座います。
ストレス展開終わりです。
「私が欲しいのは、空っぽの古代闇魔術よ。ワガママだから、己の為に使いたかった」
降りてきたのは、動きやすそうで簡素な子供用ドレスを纏った子供……。黒い髪に、青の目。
瞳の色以外、フィールデン次官様にはあまり似ておられないわね。眼力が強いなぁ……。
「貴女は出会ったばかりの他人であるお兄様の為に、命を賭けたのね。
……優しい闇魔術使いだこと」
「……優しくとかは、ないですが」
単に私の気が済まないだけよ。
だって、王族から目を付けられてるのは事実だし。
私には、他に逃げるお金も手段も権力も無いし。
「私にはどうせ後がないのです。私に不必要な遺産は、誰かの幸せの為に使うべきですから」
「ヴィーア嬢!」
「フィールデン次官様、お母様とお姉様と甥御様の為にお黙りください」
「っ!」
お、おいおい前に出ようとしないでよ! いや、頑固だなフィールデン次官様! 隙あらば私を背に庇おうとしてるけど。お体にめり込みそうなレベルでくっつくとか、田舎娘を勘違いさせたいのか! 酷い!
「君は何を考えているんだ」
「常にいい方向へ転がるように考えてます」
そりゃあ、私だって軽やかに解決したいけどさあ。
この状況では、どうしようもないでしょうよ!
ああ、どうせ古代系なら移動魔術欲しかった! 後、ゴミ屋敷じゃない有り余る逃げても暮らせる財産!
留学だって、なけなしのお金! 私には何もない! だから、せめて良いことをしてフィールデン次官様のお心に残りたいじゃないの!
そういう自棄だらけの乙女心、ご存知でなくていいの!
「……いいわ、アルファルお兄様に、お仕事と王都から遠く離れた領地を差し上げる」
「え?」
「……マリーエバー……?」
いよっし、やったあ! 飛び上がりそうになって踝同士をぶつけた……。くっ、めっちゃ痛い……!
「いがみ合って役立たない側妃の子供なんて私の治世に不必要。でも、お兄様は……ヴィーア嬢も、必要ね」
んえ? 何で私?
マリーエバー王女は、馬車に乗り込んだわ。そして、私達を手招きしてる。
……あ、フィールデン次官様に乗れって言ってるのね。……これでお別れかあ……。くっ、帰ったら涙に暮れそう……。未だ寮のシーツを替えても無いのに……。
「何してるのヴィーア嬢。貴女も乗って」
「え?」
私が、王女様と同じ馬車に? 何で? 帰るにしても徒歩でチャーリー・デコイ寮に帰るけど……。しかも、古代闇魔術の扉……あのままで?
「出てきたければ出てくるでしょ」
「いえでも、3分……」
実はフィールデン次官様に頼んだのよ。あの潜り込んだ側妃御一行様にも、古代光魔術掛けといてねって。
「とっくに経ってるわ。
それに、永遠に美しくいたいらしいから、どうでもいいんじゃない。良いから早く、お兄様」
「あ、ああ……」
フィールデン次官様に抱きかかえられるように、馬車に乗せられてしまった……。滅茶苦茶いい匂いが……。
……磨りガラスの窓が下げられて、風が私の前髪をバタバタ揺らす……。
傍には、フィールデン次官様が私の手を逃すまいとガッチリと握ってらっしゃる……。
何で私、ラスボス其のニとフィールデン次官様と馬車に相乗りしてんのかしら。
……計画もあったもんじゃ無い……。
全ては王女様の思いのままって事なんでしょうね。
私は、入口……古代闇魔術に何も入っていないのを確認して、発現を止めたわ。
フィールデン次官様も、古代光魔術の発現を止めたみたい。
荒れ地は、元通り静かになって星が瞬いていた……。
いいのかしら。
馬車で連れ去られてしまいましたね。