闇の繋ぎ目
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「アレらを人質にでも取りたいの?」
人質……。一時的にもあんなの要らないわよ……。地味に私のスキルの中に入りこまれてる時点でも、嫌で堪らなくて怖気と戦ってるのに……。
「いえ、まさか。
王女様こそ……あの方々をお見捨てに?」
「父上は浮気者がモグラよりもお嫌いなの」
ふふっ、と子供らしい笑い声が響いたわ。
……目論見は、当たってた。王女マリーエバー様は、側妃とキーキビー母娘を救う気なんて、無い。
ていうか国王陛下、モグラ嫌いなの? 確かに畑の害獣ではあるけど、畑なんて見られないでしょうに。
何処で見るのかしら。実は王宮の庭に出るの?
「それより、シュノー嬢。交渉って何をしたいの?」
目力強いし迫力有るなあ……。本当に8歳なの? でも、磨りガラスから見える影は小柄なひとりだけ。
さっきは側妃も中にいたから、大きかったけど。
「無限収納の中身をそっくりそのまま差し上げますから、フィールデン次官様とお母様、お姉様とその御子様を王家から解放してください」
「ヴィーア嬢!?」
フィールデン次官様が、驚いてらっしゃるわね。慌てたお顔がよく暗がりで見えないのが残念だわ。
「……出せるの?」
「ええ、出せますとも。荒れ地いっぱいくらいにはなるでしょうが」
「出たら即死する闇の中に、頭を突っ込んで探さなくてもいいと……いうこと?」
「少なくとも平和な荒れ地で、貴女様の信用出来る方々がお探し頂けますね」
まあ荒れ地いっぱいって目算でだけどね。間違いなくゴミで埋まるでしょうけど。……流石にご存知だったようね。
「でも、フィールデン次官様を解放してくださらないなら全てを燃やしますね」
「……はぁっ!?」
「ヴィーア嬢! それは貴女が危ない!」
「私が勝手にやることですから、フィールデン次官様はお気になさらず」
「君をお尋ね者にさせられるか!!」
「大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないっ!」
……驚いてらっしゃるわね。
まあ我ながら中々大胆な交渉よ。さて、乗ってくれるかしら……。
……フィールデン次官様に捕まれた腕が、熱いわ。
「……アレらが入っているのに? アレは一応未だ少しだけ高位貴族よ?」
「大丈夫ですよ。私の古代闇魔術収納の中なら生きてはいられます。不用意に奥に行かれるようなことは推奨しませんけどね」
いつの間にかキーキー声が聞こえなくなった。
騒いでた使用人達も居ない。
ジワジワと入り口を広げたり閉じたり不安定にして良かった。入れそうなら入るわよね。
中にはお宝らしき物が、ギランギランしてるんだもの。
……小さい箪笥程度の私の収納だけなら、とても5人近くなんて入れない。でも、古代闇魔術ってグニャグニャ動かせるのよね。
入り口を扉のようにグニャグニャ動かしてみせたから、多分王女様もお気付きだと思うけど。
そして、闇属性同士ではくっつくのよ。
光が無くなれば繋ぎ目なんて分からないわ。
要するに、私の収納と叔父の収納を繋げたの。
無限収納の上に、私の収納を重ねただけ。親族だから、古代闇魔術同士は簡単に繋がったわ。
なーんて、結構苦労したわよ。ヌルッとした闇同士がくっつく感触が今でも気持ち悪くてたまらない。叔父の魔力なんて早く失せれば良いのに……。
私の闇魔術で収納出来るのは、子供や小柄な女がすんなり入り込めるくらいの小さな箪笥程度。
その隙間の中に居る間だけは、生きていられる。空気も入れてるしね。完全に時を止めてない不完全な闇。
だけど……叔父の無限収納の中は別物なのよ。足を踏み入れれば……。
さて、王女様は、どう出るかしら。くっ、緊張しすぎて奥歯と心臓が痛い……。
心臓が破裂しそうになりながら待っているとカチャリ、と馬車の鍵が開けられた音がした。
幼い施政者マリーエバー王女は父親似です。




