交渉はもうひとりと
お読み頂き有難う御座います。
母娘がさっさと入り口へ姿を消して……中で大騒ぎしているみたい。
付いてきた使用人達も、無理矢理体をねじ込もうとした奴もいるわね。無理矢理だとねじ切れるわよ。
まあ、騒ぐといいわ。だから、馬車に近寄るのは容易だし。フィールデン次官様が腕を貸してくださったまま……。
場違いだけど滅茶苦茶贅沢なエスコートを体感している……。やだ、掴んでいる手が勿体なくて腫れそう。って、そうじゃないのよ。
「高貴なる方、お取引を」
「……」
騒がしい中で、近くに寄る者だけが聞こえる息遣いだけが、荒地に聞こえた。
緊張する……。
「正統なるお血筋であらせられる王女殿下、マリーエバー様」
「……」
私もね、さすがに無知すぎるから王家について調べたのよ。没落したから、からっきしだもの。
くっ、引っ越し荷物を解きながら興味ない本を読むのは実に疲れたわ。
今の国王陛下……、あ、此処はギリ隣国だから生まれた国のね。8人の側妃……そして、勿論王妃殿下がおられるの。
でも8年と少し前。
側妃に子供が授かる中、中々恵まれなかったけれど遂に授かって、隣国出身の王妃様は姫君をお産みになった……。
さぞかし側妃界隈? は揺れたことでしょうね。お子様の居ない側妃なんかは、特に……。お子様の居る側妃も気が気じゃないと思うわ。
……まあキーキーリ側妃が浮気してんだから、他の側妃様の交際歴とかユルユルベロベロなのかもしれないわね。
授けられたお子様方も果たして……だけど。まあその辺は私の与り知らぬ事。知りたくもない。
「話させて頂くこと、叶いませんでしょうか」
古代闇魔術使いだけど、凡人なもんで……。索敵なんて、使えない。
フィールデン次官様の、視線を辿っただけ。
「……貴様」
お陰で御者にしては迫力のあるオッサンが、殺気を漂わせてるのに気付けたもの。
空の馬車に其処まで気を張る必要って、無いわよね。
中に護衛対象が居ない限り。
「いいわ、赦す」
向こうでは、キーキーガーガーと大騒ぎになっているわね。ガメつく中の物を争ってるみたい。
その煩い中でも囁くような声なのに、よく通っていて。
上に立つ施政者として、しっかりと訓練された声だったわ。
「国宝ですが。恐らくもう原型を留めず朽ちるか溶けております」
「……知っているわ」
呆れたような溜め息も落胆の声も聞こえない。
古代闇魔術を使った無限収納の特徴を、ご存知だったってことかしら。
……古代闇魔術のカラクリなんて、王家の誰かが知っててもおかしくないでしょうしね……。
「どうして此方にいらしたのでしょうか」
「どうしてかしらね。ワガママでやってきたのに」
「あの方々の処理にお悩みで?」
「中々小賢いのね」
沢山の王子王女がいらしても跡継ぎは、この第7王女……マリーエバー様。待ち望まれていた、王家の正統なる姫君……。
しっかし、この方の企みが読めない……。最初は子供のワガママだと思ってたけど。子供だからって侮れないみたい。
でも、国宝を奪いに来た訳でないように見えるのよ。
欲しいと言っていた割に、ドレスと無限収納に全く興味を示されてないもの。
と言うことは、時を進めても朽ちない燃えない何かを探している? ってことかなって。
最初はキーキー母娘と同類かと思ったけど、色々鑑みて……計画を変更したのよ。
フィールデン次官様が平和なエンディングへ向かう的解決イケるんじゃない? って。
王族のフットワーク軽すぎ問題は、ファンタジーとしてお納めください。




