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元令嬢は無限収納の相続人を辞退したい  作者: 宇和マチカ


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強欲の伴侶

お読み頂き有難う御座います。

 私の計画……。それは。

 フィールデン次官様のお力で国宝が見つかった、という茶番劇を繰り広げること。

 勿論見つかる訳が無い。だから、派手にやらないと。


「……という訳で」

「……成程」


 簡単に低い小さな声で説明すると、フィールデン次官様は頷いてくださったの。

 茶番劇の片棒を担いでくださると。一も二もなく頷いてくださったわ。

 ……屈んでくださったら額が近くて、鼓動が止まらなかった。

 失敗が出来ないから怯えているのか、それともフィールデン次官様への抱いている淡い思いが叫んでいるのか。


 ……しっかりしなきゃ。

 仕掛けは簡単。

 だから、コレからは私の演技力で……何とかしなきゃ。

 私は、適当な位置に闇の力を具現化した。

 子どもか、背の低い女性がやっと入れそうな小さな扉が出来たように見えるように。

 傍に居てくださるフィールデン次官様の息遣いで、緊張されているのが分かる。


「ご覧ください」

「……あら! 中々綺麗じゃない」


 扉を開けて薄暗い中には、綺麗な布地が翻り光っている。

 淡い光を集めたような布地も。

 奥に行くにつれ、柔らかな光が翻っている。


 キーキビーも、お供の奴らも身を乗り出して見ているわ。

 そして……恐らく。

 磨りガラス越しの窓からはバラバラに動く影しか見えない。だけど、車輪が華奢なせいで、僅かに軋む馬車の中に居るであろう人間も聞いている筈。


「お待たせしました。お嬢様」

「全くよ!」

「ええ、フィールデン次官様とドレスを見つけ出したのですが」

「出しなさいよ、早く!」

「出したいのは山々なのですが……」


 私は、出来るだけ愛想よく笑ったわ。

 ええ、悪人面だけど、悪人を騙すんだもの。

 とびきり笑顔にならないと。


「田舎の庶民の私には、どのドレスやヴェールが婚礼衣装か分からなくて」

「えっ……」


 動揺してるわ。やっぱりね。

 婚礼衣装が直近で何時使われたのか分からないけど、子供が詳細を覚えているとは思えないのよ。

 私が魔法のように目当てのドレスを取り出してみせる、とでも思っていたのかしら。

 散々モッサイだの田舎者だの臭いだの見下していたのに。


 だから、そっくりそのままお返ししてあげる。

 田舎者に見る目はない。高価なものが分かる筈ないって、納得いく理由でしょ?


「沢山あるので……素敵なドレスだらけで」

「素敵な、ドレス……たくさん……」


 強欲だと思っていたのよ。叔父の娘だものね。

 そして、隠れて浮気をする側妃の娘でも有るから……かなりのね。目が益々陰険面に……。

 嫌だな、私も傍から見たらあんな顔なのかしら。


「……仕方ないわね! キーキビー、おどきなさい」


 ……こんな荒地にゴチャゴチャしたドレスを引き摺って出てきたわね、ラスボス其の一。

 叔父と浮気をして、子供まで拵えた図々しい女。

 コイツって叔父の正妻? なのかしら。その割には生きてるってことは身分が高いから? 英雄の夫(おじ)に殉じる死は免れたの? どうでもいいけど。

 ゴージャス美女を気取っているのかもしれないけど、陰険な目つきが台無し。叔父とはお似合いだったのかも。


「ええっ、ズルい!」

「じゃあお母様が見てあげるから、取ってらっしゃい」

「ですが、奥方様……危険です」


 ……くっ、要らんことを言わないで欲しいわ。でも、それくらいは想定済みよ。


「……では私が。でも、私は奥方様やお嬢様のように華奢では有りませんから……腕だけで失礼を」


 手を突っ込んで……上着を出してみせたわ。

 簡素で素朴な上着だけど、上手い具合にキラキラしている。闇の中で煌めく星のように儚く消えるような光を纏った美しく見える上着。

 フィールデン次官様以外の奴らが息を呑むのが分かったわ。


「……お母様、ドレス沢山欲しい」

「子供には勿体ないわ。そこの庶民、扉を広げなさい。侍従に取りに行かせるわ」


 人に何でもやらせる割に、ガメつい科白。でもねえ、それも想定済みよ。それにしてもキーキー煩い声ね。名は体を以下略過ぎる母娘過ぎる。


「叔父様のように魔力のない私には、コレが精一杯で……ああ、もう少しで力尽きて閉じてしまいそうです」


 しまった、よろけてフィールデン次官様にぶつかってしまった。


 ぎゅむ。

 ……!?

 お、お、お抱き止めてくださったあああ!?


「な、何ですって!」

「ちょ、待ちなさいよ! お前、タダじゃ置かないわよ」


 醜い母娘だわ……。演技してるのに吹き出しそうよ。

 後、フィールデン次官様が滅茶苦茶いい匂いするから演技が余計棒読みになりそう。心臓よ鳴り止んで……たら死ぬわね。穏やかに鳴って……。

 もう薄暗いから、顔が赤いのがバレなくて良かったわ。


「早くしないと……こんなに安全なのに……。安全じゃなくなってしまうかも……」

「確かに、側妃とキーキビー嬢だけなら気楽に入れそうな扉ですね」


 フィールデン次官様の援護射撃が効いてるわね。よし、トドメだわ!

 肉体労働にも勤しむ侍従やら侍女が入り込むには、ちょーっと無理程度にジワジワと扉を縮めといて、と。


 フフ、見る人が見たら分かる脳トレよ。まあ、見抜くのはほぼ無理でしょうね。

 しかし、本当に喋りながら魔力注ぐと滅茶苦茶疲れる……。でも、叔父とコイツらを褒めるのが一番メンタル削るわ……。


「英雄たる叔父様の奥方様ですもの。闇の中程度では動揺されませんわね。

 きっと、私では見つけられなかった叔父様の素敵なご遺産をも……。例えば」


 ニコリ、と微笑む頬と奥歯を噛み締めすぎて痛いわ。もうひと踏ん張りよ。


「……他の国の国宝ですとか」

「閉めるんじゃないわよ!」

「お、お母様待ってー!」


 ……掛かったわ。

 でも、これからよね。




色々逆手に取りました。

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