同じような顔が来襲する。
お読み頂き有難う御座います。
……チャーリー・デコイ寮から荒地スッカンが近いと言われていたけど、まあまあ遠いわよ。足元も整備されてない道だから歩き辛いし。
勿論荷解きは全く終わってないわ。……行きたくないけど、行かねばならない……。
しかも、何で夕方に呼ぶのよ。さては夜陰に紛れて国宝をパクって、邪魔になった私を亡き者にする計画だな! 分かるわよ! そうは行くかってのよ。
古代闇魔術使いが闇中で殺されるなんて……こともあるけどね。攻撃手段な無きゃそんなもんよ。
特殊な属性持ちなだけの凡人だからなあ、私……。
もっと闇魔術が格好良く活躍する世界観で華やかに活躍したかったわ……。そういう小説でも漁ろうかしら。でも、大体格好良く活躍するのって、光魔術なのよねえ。闇魔術使いが活躍しても元敵とか、そういうの。
くっ、イメージの問題なのかしら……。
……考えてたら案外早く着いたわ。風が昼間と違って肌寒い……。保温の目的じゃなかったけど、長い上着を持ってきて役立ったみたい。
荒地スッカン……。
嘗て、古代の大都市だったけど悪王のせいで住人が丸ごと生贄に捧げられたという曰く付きの地……。
まあ、今は雑草だらけの荒地だけど。
「来たわね!」
「……」
来たわねじゃねーわ! それ、待っててくれた人の科白!! しかも待たせやがったわよ、あの金切り声キーキー!
あ、キーキビーだっけ。取り敢えず煩い名前よ。
また荒地にそぐわない馬車ねえ……。白い車体にピンクの車輪とか、どんなセンスよ。せめて町中で乗りなさいよ。石でも跳ねたのか、滅茶苦茶傷付いてピンクが剥げて下地見えてるし。ダサいわ……。
「……本当にお父様と親戚なの? 野暮ったい黒で髪型もモッサイし、目つきも悪いし目の色も暗いし。極悪人顔じゃない」
お、おまいう……。
お前も同じ色味だし、同じような悪人面だろうがよ……。
それに、前髪パッツンはダサかろうが仕方ないでしょうよ。
大体碌な鏡も無い田舎で、オシャレ美容師がワンサカ居るとでも思ってんのか。好きでやってんじゃないわ。器用なお人好しが居ない限り、家人の仕業か自切りなのよ。
……くっ、生き残れた暁には、学校近くに散髪しに行こう。
決して! 13の子供に指摘される女子力の低さを指摘されて、刺さってダメージ受けてる訳じゃないのよ……。
しかし、シュノー家の遺伝子ヤバいわね。この金切り声クソガキ、滅茶苦茶シュノー家面だわ。そりゃ側妃様の浮気もバレるわ。
「それで、本当に見つけたんでしょうね? あのガキよりも早く寄越しなさいってのよ」
「高貴なる古代光魔術使い、フィールデン次官様のお力が有れば直ぐにでも」
「……本当にこんな金無し王子が役に立つのかしら」
カネカネと、金切り声で煩い奴ね……。
偉そうに手下に首クイして命令とか……似合わないわねえ。
あ、フィールデン次官様は馬車の後ろにいらしたみたい。
……此処から見える範囲に、お怪我はなさそう。でも、窶れていらっしゃるわ。
きっとあの金切り声で責め立てたり、嫌味をぶつけたんでしょうね……。もっと責め苦を味わってらしたのなら、是非とも成功させなければ。
「ではフィールデン次官様、此方へ」
「……脅されたのか、ヴィーア嬢」
「ええ、脅されましたとも。やり返しますのでお気遣い無く」
少し呆気にとられた顔をされてしまったわ。
くっ、下手なウィンクなんてしなきゃ良かった……。
そんな苦難に満ちた顔をされて……。どんなお辛い目に遭われたのかしら。
何が何でも成功させなきゃ。
「此方へ」
「今からでも……逃げ」
「ご家族の為にも私の無事の為にも、そうは参りません」
もう居場所はバレてる。次はきっと、ワガママ王女が来るでしょう。
もう来てるかもしれないわね。
「貴方様のお力が必要なのです」
そっと触れた御手……。更に荒れた御手に、手袋は無い……。この苦痛が終われば、薬を山盛り塗って差し上げたい。
「家族思いの方。薄い縁の私ですが、信じてくださいますか?」
低く小さい声で問うた私に、面食らったお顔をされて……。
「俺に出来ることは、貴女を信じる事だ」
普通に生きていては、二度と手の届かないお方。勿体ないお言葉を、この夕焼けが僅かに残る空を見る度、思い返すのでしょうね。
黒髪黒ジト目がシュノー家の特徴ですが、実は国王陛下も黒髪です。




