忙しい時に望まぬ来客
お読み頂き有難う御座います。
要らない遺産が転がり込んできた田舎娘と、厄介事を持ってきた宰相付き次官のお話です。
「貴女が英雄マロロ様の姪、ヴィーア嬢か」
「……何方様で?」
私の名前はヴィーア。子供の頃は貴族だったけど、爵位を返上した普通の平民のヴィーア。
滅茶苦茶頑張って……王都で教えた先生がお出での地方学校(隣の町だから結構遠いのよ)で勉強に励み、隣の国に留学を許可されて、その準備に忙しい最中。
今はありとあらゆる私物を詰め込む為の箱が積み上がり、テーブルには手続きの紙やその他諸々が置き去りになったまま。
つまり、室内は滅茶苦茶散らかっているのよ。タイミング悪いの! 好きで散らかしてる訳じゃない!
しかしどう贔屓目に見ても! こんな綺羅綺羅しい初対面のイケメンがやってくるなんて、嫌がらせなの?
イケメンでなくても他人をお通しできる部屋じゃないの! 私自身もホコリだらけだし!
そもそも、叔父のお陰でウチは爵位返上の憂き目に遭ったのよ。
何の用だか知らないけど、叔父絡みなんてそんな騒動の種、要る訳無いじゃん! 不吉極まりないわ!
「英雄マロロ様の遺産をお持ちした」
やっぱり。要るわけ無いじゃん。(二度目)
「相続は何から何まで一切合切拒否します。受け取り拒否で。
玄関先で恐縮ですが、速やかにサイン致します。何処に書いたら宜しいので?」
「……話をしたい。中に入れてもらえないか?」
だーかーら、散らかってるから入れたくないんだってば! 貴族なんでしょ、部屋チラ見したでしょ! お得意の空気読んでよ! 平民だから読まなくて良いと思ってんのかしら。
有りそう。偉そうだし。
仕方ない、扉を閉めて私が外へ出なきゃかなあ……。流石にこの足の踏み場の無い室内に入れる訳にはいかないわ。
流石に下着とかは鞄の中で良かったけど。……落ちてないよね?
それにしても銀髪碧眼とか、イケメン吟遊詩人以外で久々に見たわ。
滅茶苦茶イケメンだなあ、この人。お金掛かったんであろう、爽やかないい香りまでするわ。きっと、その辺の草ではない名のある草の香りというか……。
「失礼する。……間に合ったようだな」
「ちょっ!」
香りに感動してたら、何勝手に他所様のお家に入り込みそうなのよ、此奴!!
貴族に見えるのに、ナチュラル押し込み強盗気質!?
うう、何時もドアの前に置いてるけど、散らかり過ぎて暴漢対策の長い棒まで届かない!!
「私の名は宰相付次官アルファル・ド・レーヴェン・カール・フィールデン」
名前、長っ。
こりゃ、お偉いところのお家柄だな。無礼討ちが怖いから、サッサと帰って欲しいわ。何処の爵位とかお聞きする前に! 面倒だから知りたくない!
「最低最悪叔父とは縁を切ってますから!
あのオッサンがそう言い出したんですよ! 死のうが生きようが頼って来るなとか、一族郎党へは何も残さんとか! 要らないし!
兎に角、最高に失礼な文書にも残ってます!
えーと、確かあの……金庫に!」
「あの掛け布団が載せられた、鉄の箱らしきものか?」
くっ、シーツの後に今詰めようとしたところで……! 手持ち金庫に掛け布団を載せなきゃ良かったわ。でも、ベッドはもうホコリ除け掛けてあるのよ! テーブルも大事な書類で一杯だから、置き場が無くて!
「シュノー家は、古代闇魔術の家系だろう。収納魔術が得意では? この程度、あっという間に何とか出来るのでは?」
くっ、ウチの得意分野が知られてた……。
まあ、隠してないしそりゃそうか。仕方ないわ。
十数年前迄、我がシュノー子爵家は貴族の端くれだったからなあ。地味なスキルと魔術属性なんだけど……。どうも使いたいと思えないのよね。
「生憎と、私は叔父のように詰め込み放題のゴミ屋敷収納は作れませんから」
「ゴミ屋敷……」
「……凄く嫌ですけど、遺産とやらは恐らくその件ですよね? 叔父の、無計画に詰め込んだ無限収納」
背の高いイケメンなのに、銀髪の掛かる額と眉間にシワが……。
褐色の肌に青い瞳が映えて眩しいわねえ。久々に中央の都会的イケメンを見たわ。
いえ、嘘。貴族だった時は子供だから中央とか殆ど行ったことないわ。くっ、イケメンに囲まれてウハウハしたい貴族生活だった。
「聡明で話が早い。緊急事態なんだ」
「はい?」
「……遺産の中に、国宝が入ってるそうなんだ」
うへー。恐ろしい物を放り込むなあ。
まあ、やらかしちゃうだろうなと思うわ。話を聞いてた叔父の性格じゃねえ……。
しかし、美形に褒められても全く嬉しくないって有るのねえ。
誰かの無限収納が遺され、片付ける羽目になったら恐ろしく大変そうだな、と思って書きました。