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8年ぶりに会った初恋の人に、綺麗さっぱり忘れ去られていた件  作者: ラストジェネレーション


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第十八話 悔恨

 ある日、私は不意に、リョウに会ってみたくなった。


 私の初恋である彼とまたお近づきになりたい訳では断じてない。


 むしろ逆で、私は彼に今の成功した自分を見せつけ、

『あの時貴方の眼中にさえなかった私が今や、こんな立派な人間になりました!』

などと、さながら同窓会で再会した元いじめられっ子が、後付けで手に入れた

権力を振りかざすかの如く、彼を狼狽させ、後悔の念に至らしめさせたかった。


 そうでもしないと私の中に溜まり

燻り続けた八年間もの思いは精算されそうにないーー


 私は、リョウが単身で東京の大学に進学したのを知っていた。


 地元には帰って来ていないと聞き及んでいたから、

都内で働いている可能性が高い。


 歩いていたら、ばったり出会うなんて事があるかもしれない。


 もしかしたら、向こうが会いにくるなんて事が、あるかもしれない..。


 そう考えると、頭の奥の方にボゥっと熱が篭ったようで、

途端に顔も火照り出した。心音が高まり出して、私は少しだけ元気になった。



 人混みの多い朝の通勤電車はあまり好きでない故、

私は女性専用車両に乗る事が多いものの、今日は普通車両に乗った。


 品川駅の改札にパスモをくぐらせ外に出ると、そこには時計台があった。


 待ち合わせに使われる場所で、私以外の他にも、

側で立っている人が何人かいた。こんな朝早くにご苦労な事だと思いながら、

私は近くのスタバで買ったブラックコーヒーを口につけた。


 芳醇な豆の蒸気が、鼻いっぱいに広がったーー


 「あれ..。なんで私、こんな所にいるんだろう..」


 気づけば始業時刻の10分前までに差し掛かっている。


 私は急いで会社に向かった。


 去年、倒産した別の会社の建物を丸ごと買取り外装だけをリフォームさせたビルだ。

内装は一部経年劣化による傷やシミが目立つけど気になるほどのものでは無い。


 そうしてビルの入り口付近にまで辿り着いた時だった。


 地面の左右に均等に配置された木製の椅子ー

その一番手前の私から見て左側にいる男の近くに、鳩の群れがあった。

男の手元をよく見ると、彼は鳩にパンクズを与えているーー


 信じられないし、非常識な人もいたものだと落胆した。

年齢は私と同じか少し上くらいと見受けられるものの、長い前髪のせいで

顔は見えないし全身から負のオーラが漂っているため相手にしない方が良さそうだと判断した。


 しかし、彼はホームレスでもなければ恐らく、ここの社員である事もない。

部外者は立ち入り禁止というルールは無いけれど、人の所有地で好き勝手される

のも嫌だった私は仕方なく、話しかける事に決めた。


「鳩に餌をやるのは禁止です。立て看板に書いてあるでしょう?」


 あまり長い時間付き合う余裕もないから、伝えたい事だけを端的に述べた。


 すると男は、嫌にしゃがれた声で謝るだけで、相変わらず下を向きながら、

今度は焦点が定まらず、瞼に大きなクマの出来た淀んだ目で私の体をジロジロと

舐め回すように見た直後、今度は自分の服をペタペタ触り、再度下を向いた。


「どうして、そんなに私の顔をジロジロと覗き込んでいるのですか? 何かついてます?」


 と言うと、


「え、あ..」


 なんて恐らく意味のない、不可解なリアクションだけを残しーー

下を向いていた彼は、今度は私の顔を凝視してきた。


 年の割に頬は痩せこけ、目は窪み、肌は黄ばんでいた。

長期の睡眠不足と、アルコールを多量に摂取する自堕落な人間に良く見られる兆候だ。

あまりに長い時間見つめられたから、流石に何か言ってやろうと思った。


 その時だったーー


 今私を見つめる、骸骨のような男がわずかながらも、かつて私が恋した

夏目リョウの片鱗を垣間見せている事に気がつくのは時間がかかると同時に、

気付いた私は自分の腹の中で暴れ回る感情をどうにも出来ず、


 恐怖にとらわれ、その場から逃げるように立ち去った。

私の心の中に、八年前演じたもう一人の自分シズクが再び目を覚ました。


 噴煙を上げる桜島、病院の地下室で見た姉の死体、

リョウに殴られた頬、床にぶち撒けたよだれと血、自衛隊に取り押さえられる彼ー


 私が、私を殺したあの時から今まで、私は死んだままだったと気が付いた。

死んだあの日から、私の心に入り込み息を吹き返した姉が、私になったのだと..。


 私は、クイナじゃない..。シズクなんだ..。


 その直後、背後から肉をさく鈍い音がなったーー


 何者かが包丁で人を刺したようだったが、刺されたのは私ではなく、

間に割って入ったリョウだった。


「リョウ..」


 彼はそのまま、仰向けになって倒れ、譫言のように呟いた。


「あぁ..。シズクか..?」


「私、リョウ君のこと、、ずっと好きだった..。だから、死なないでよ!」


「はっは、、死ぬって、、何言ってんのさ、だって俺は、、」

「そうか..。俺が割って入ったのか..。間に合って、良かった..」


「うんーーうん..。 あの時と同じだよ..。また、助けてもらった..。

私、、リョウ君に二度も命を救われちゃったね..」


「に、二度..?」


「リョウ君、、もう一回、、私の名前を、呼んで..」


「....。良いよ、、東條シズク......」


「リョウ君、、私はーー」



 私は、夏目リョウの事が好きだった。


 高校時代から変わらず、恋していた。


 しかし彼には東條シズクという彼女がいて、

彼が愛していたのは彼女だった。私じゃなかった、それだけの話だーー


 私は、シズクになって、彼に愛されたかっただけだった。


 クイナは初めから、何処にもいない存在だった。


 

次話でラストです!

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