第95話:激辛チャレンジ
「オメガターカイトの! 青春は愛より出でて愛より青し!」
そんなわけで、俺の生きる上で必要なドルオタ成分を摂取せざるを得なかった。毎週更新されるネット配信動画で、オメガターカイトのメンバーが、その都度代わる代わる出演して、番組企画に挑戦するという。
「はーい。今日のお題はコレ! ドン!」
動画には激辛チャレンジと書かれていた。まぁ動画サイトではよくある企画。ベタと言えばベタだが、アイドルが辛い物を食べて悶えるシーンは俺も興奮する。自分でも原理はよくわかっていないのだが、可愛い女の子がホラーを怖がったり辛い物を食って悶えている姿を見ると、心が満たされるのだ。何でと聞かれても知らんとしか言えんのだが。
「えーと。できればわたくし的には心づけ程度にしてほしいのですけど」
青色に反射する黒髪の美少女が番組のステージで引きつった笑顔を見せていた。お嬢様口調が特徴の美少女だ。顔の作りは大和撫子といった感じで、可愛いは可愛いのだが、古風な日本美人の印象。ルイとかタマモがイケイケの今時の美少女だから、こういう美少女は差分になっていい感じ。
「むー」
「…………むー」
ふくれっ面のルイとタマモ。何が機嫌を損ねているのかはわかるが、俺的にはどうでもいい。「オメガターカイトの青春は愛より出でて愛より青し」は俺の視聴番組だ。オメガターカイトの推しとしては一回たりとも見逃せない。
「可愛いなぁ。臼石アワセちゃん」
青に反射する黒髪の大和撫子美少女は名を臼石アワセと言った。
「マアジ! 浮気!」
「…………これは訴訟案件です」
とは言っても、そもそもオメガターカイトのメンバーは美少女しかいないのだが。特にルイが群を抜いて可愛いのだが、他のメンバーも見劣りするわけじゃない。既に推しではないが、角夢杏子だって可愛さで言えばそこらのアイドルを軽く凌駕している。テレビの中の臼石アワセも、またその美少女の一人。
「ではABCの箱から一つ選んでください! 辛口。激辛。超激辛の三種類の担々麵が揃っております!」
「じゃあAの箱で!」
「了解しました。はい。では超激辛担々麵をご賞味ください」
「何でですのー!」
悲鳴を上げる臼石ちゃんと、それによって笑いが弾けるスタジオ。
「もうすでに香りを嗅いだだけでヤバいんですけどー!」
「それではグッと行ってみましょう。女は度胸ですよ」
「ヤバいって。もう空気だけで目が痛いですわ」
「もちろん完食していただけますね?」
「アイドルイジリもいい加減になさいませ!」
たしかに。ドリフのリーダーも死ぬ前に言っていた。イジリで笑いを取るような風潮が広まらないことを願う、と。でもやっぱり可愛い女の子がヒィヒィ言いながら辛いものに挑戦している映像ってかなりそそるんだよなー。俺だけ?
「辛いですわ。これを全部食えと」
「もちろんです。全力で完食してください」
「ひー!」
ああ、アイドルが辛いのに悶えてるって良い絵面。俺ってドSじゃないんだが。
「お兄さんも趣味悪いにゃー」
で、俺の膝の上に座っているサヤカが、そんなことを論評してくる。
「サヤカもやってたろ?」
「やったねー。結構前だけど」
「やっぱ辛いの辛い?」
「キャロライナリーパーとか人が食べるものじゃないから」
リーパーって付いてるしな。
「っていうか。サヤカ。なんでマアジの膝に座っているぞ?」
「幼女の特権」
「年齢一緒でしょうが」
「でもサヤポンくらい小さくにゃいとマアジお兄ちゃんの膝に乗れないでしょ?」
「マアジ。ボクでも行けるぞ?」
「膝に座りたいなら、相応のタイミングにしてくれ。俺的にはテレビ視聴中は勘弁」
「…………あたしは?」
「後ろからおっぱい揉みしだいていいならあり」
「…………ありですね」
そういやこういうことに遠慮がない奴だった。
「から~い。勘弁してほしいですわ」
で、画面の中の臼石アワセちゃんは超激辛担々麵を食べながらヒィヒィ言っていた。
「ここでお冷チャーンス! 問題に答えられればお冷がもらえます! 間違えると山椒を追加ですが。やりますか!?」
「これ断ったらエンタメ的に邪道じゃないですか?」
「よく分かってらっしゃって。では問題。桃太郎のモデルになった日本神話の英雄をフルネームで答えよ」
「え? 桃太郎にモデルがいるんですの?」
「はい。不正解。では山椒を追加。大盛で」
「ちょ!」
「頑張れ臼石アワセちゃん。オメガターカイトチャンネルの視聴数は君にかかっている!」
「だからってこんな死体蹴りされても!」
「可愛いなぁ。臼石ちゃん」
「じゃあ今度ボクが激辛チャレンジしようか?」
「ルイはもうやっただろ」
「…………あたしが」
タマモもやっている。っていうかほぼメンバーはやっている。むしろ臼石アワセちゃんが遅かったくらいだ。さて、そうすると。
「辛いですわー。何とかしてください」
「ではここで今回の担々麺のシェフに意見を聞きましょう。これほど辛いのは客に出すんですか?」
「さすがに出しません。でも臼石アワセさんのあの顔を見れただけでもやってよかったと思います」
大丈夫かコレ。店の評判が炎上しないか? まぁ一応モザイク処理でシェフの顔は分からない様になっているが。
「完食しましたわ! どうですの!」
「ありがとうございました。盛り上がりましたよ。あ、お冷いります?」
「貰いますわ」
そうしてグイグイと水を飲む臼石アワセちゃん。
「はい。撮れ高がありましたね。今週のオメガターカイトの青春は愛より出でて愛より青しはいかがでしたでしょうか?」
超面白かった。可愛いアイドルを弄り倒すのは、俺の中ではジャスティス。
「面白いと思ったお方。チャンネル登録をオメガいゴホッゴホッ。おねぎゃいします。辛みが~。あと高評価もオメガいします」
「もちろんメンバー参入も歓迎ですよ!」
司会進行がそう言って、動画は終わった。
「はー。もうオメガターカイト神! 俺の推し」
「アワセはいい子だからなー。ボクみたいに悪い子じゃないぞ」
「…………育ちもいいですしね」
「アワセお姉ちゃんは好きー」
「わかるデスよ! アワセは揉んで揉んで揉みしだきたいデスよね!?」
多分サヤカとイユリの感想は肯定という意味で重なっているが、その本質は違うものだろう。
「にしても臼石アワセちゃんかー」
「惚れたとか言わないでよ?」
それはないが。今のところ箱推しなので、可愛いものは可愛いのだ。




