第91話:色々やってはいるんだが
「あ♡ あ♡ あ♡」
嬌声が上がる。はたしてアイドルが上げていい声なのかは後世の研究家に任せるとして。俺とプレイパーンしている推しの喘ぐ声を聴け的なオープニングから始まって裸で絡み合うエンディングはこの際何のネタなのかは議論しないが。
片中サヤカのオーバリズムは、こと夢の中では最強というか。場合によっては万華鏡写輪眼の幻術にも匹敵する。その仮想空間で俺が今何をしているのかと言えば、ナニもしていませんよ、というと虚偽の供述になり。裁判が開かれれば場合によっては術式を没収される。領域展開のルールによっては処刑されるかもしれない。
「マアジ♡ マアジ♡ 大しゅきぃ♡」
で、シルエットになれば二人と数えていいのか怪しい光景の中で、俺と唾液を交換するタマモさん。唾液の交換はもはや日常茶飯事だがナニ中にやるとテンション爆上がり。
「出してぇ。中に。いぃぃぃっぱぁい」
「ていうか腰が止まらねえ」
そのまま出して果てる。何が、とか何を、とかそういうのは勝手に補完してもらうとして。もしかしたら何もしていないかもしれませんよ? え? やってるだろって? まさか~。
「…………」
朝起きると、俺の息子が仕事を果たして項垂れていた。イザナギの幻術はかなりの精度で、あれはもはや現実を侵食する大禁呪と言える。もちろんそんなことをしてタマモといたしているのだから、俺のアレはアレでして。小数点が必要な薄さの幸せ家族計画が無ければ、学校を休んで布団をクリーニングに出しているところだ。
そもそも俺のアレはそんなに大きくないし、連射性も無いので、複数人といたすのは無理がある……とは既に言っている。そこまでラブコメ主人公みたいな属性は持っていないぞと。いいよなぁ。ラブコメ主人公。アレがデカくてベッドヤクザで複数人の女の子とヤってもへこたれないの。むしろ俺の相手をするのに三人じゃ足りないとか言い出すんだよ。俺には遠い世界だ。なわけでサヤカに頼んで、一夜に一人。それが限界ですとは言ってある。それでも俺に抱かれたい人間は世界に四人ほどいるわけで。今のところ寝取られの予兆はないが、俺がベッドヤクザでない時点で、女子的にはどうなんだろう?
マイナス思考は考えれば考えるほどグダって来るので、思考を打ち切る。さすがに匂うと嫌なので、厳重に封印してゴミ箱ではなくゴミ袋に直接捨てて、俺は朝の仕事に入る。おそらくサヤカのオーバリズムは再現性においてかなりのものだろう。昨夜のタマモの抱き心地だって、悪魔の証明だが蕩けそうなくらいご機嫌だった。っていうか、アイツらがアイドルを続ける限り、俺って童貞貫かんといかんのか?
「そう相成るぞ」
その事をルイに話すと、あっさりと肯定が返ってきた。
「でも別に童貞に忌避感もないでしょ?」
「忌避感というか。俺だってちょっとしたい感情はあるが」
「する?」
「だーかーらー」
出来ればいいなって話であってだな。
「ボクが妊娠して引退すれば杏子が推される可能性も」
俺が世紀末になるんだが。汚物は消毒だぁ、みたいな。
「その時は無想転生で反撃すればいいじゃん」
「アレは悲しみを背負っていないとできんだろうが」
ルイとの間に子供ができたらハッピーニュースだっつーの。
「いずれ子供は作ろうね?」
「まぁそうできたらいいんだが。タマモとの関係はどうする?」
「選んで欲しいけど、選ばれなくてもマアジを諦める気は無いぞ」
「愛してくれるのは純粋に感謝」
「大好きだから」
「俺も」
そうしてどちらからともなくキスをする。目が交差した時点でこうなるなとは思ったが、ルイとのキスも自然にできるようになった。相手が求めるタイミングがわかるようになったのは、俺としても成長しているのか。
ギュッと抱きしめて、ルイの細い腰に腕を回す。震えるように感激するルイの肢体が、このまま抱けと言ってくる。俺もできればそうしたいんだが。
「じゃ、朝飯にするか」
「マアジの意地悪」
「アイドルとできちゃった婚をすると、英語で言うところのショットガンマリアージュだろ」
「ショットガンで済むといいね」
銃が小さすぎるぜジェフ、とか言えるくらい身体を鍛えるべきか。そもそも筋肉は結構ついているんだよな。神経が一般的な人間とは仕様が違うんだが、肉体に関しては恵まれている。アレの大きさを除けばな。まぁ俺の戦力は筋力よりミストルテインなんだが。
「もぐもぐ。美味しい」
で、俺とルイとタマモで飯を食う。サヤカとイユリは今日はいない。それでも遠隔でサキュバスの能力使えるから凄いよな。サヤカは。タマモは目を覚ますとトロンと瞳を濁らせて、それからシャワーに直行した。その間に飯を用意。今日は白米と焼き鮭と味噌汁だ。ちなみにリクエストがあったので焼き鮭はバターで焼いている。
「美味しい。結婚して。マアジ」
「…………あたしを孕ませてください」
お前らがアイドルを卒業したらな。それまでは秘匿恋愛に従事するより他あるまい。
「流石にクリスマスはライブするんだろ?」
「今のところはその予定」
「…………サンタのコスプレでライブする予定」
「箱?」
「まぁ。大きいところだけど。さすがにドームを抑えるほど事務所は強くないからね」
杏子から優良企業とは聞いているが、ゴリ押しできるほど基盤は強くないらしい。ほぼオメガターカイトに企業の底力が依存している状態で、オメガターカイトが不祥事起こしたら、そのまま終わるとかなんとか。
「ちょっと待て。それつまり俺の指先に事務所の運命が乗ってるってことか?」
「大丈夫。バレないって。そのためにこのマンションにいるんだから」
ダムの決壊も小さなヒビから入るんだぞ。
「じゃあ別れる?」
「それは嫌」
俺だってルイとタマモを愛しているのだ。
「ふふ、マアジ可愛いぞ」
「…………とても愛おしいです」
「まさかなぁ。できれば想像妊娠とかは止めてくれよ?」
「…………あんなに出されると」
「出されたの?」
「…………避妊はしていないですね」
「むぅ。マアジ」
「お前とやるときも出しているだろうが」
「こうなったら幸せ家族計画に穴をあけるしか……」
そういう問題じゃないと思うんだが。というのも、あくまでやっているのは夢の中だ。そりゃ寝込みを襲われれば俺にも抗い様がないのだが。そんなわけで朝飯を食い終わる。俺は皿洗いに移行。美味しく食べて貰えるのが一番嬉しい。
「…………マアジ」
で、そんな水場に立つ俺に、トロンとした瞳を向けるタマモ。
「……ん」
その彼女にキスをする。カチャカチャと皿が音を立てる。
「…………マアジ。……しゅきぃ……だいしゅきぃ」
「ありがとな」
ムギュッと俺を背中から抱きしめるタマモ。背中にGカップの胸が押し付けられて、俺の感触も幸せ。というか、色々と刺激される。大丈夫だよな? ここでタガが外れたりしないよな? 全く無いとは言い切れないから怖いんだが。




