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第90話:私はさそり座じゃない女


「ハロー」


「…………」


 ジュルルル~と肉うどんの麺をすすっていると、焼き魚定食をお盆に乗せた杏子が、俺の対面に座った。忘れていたわけではなかったが、そういやコイツと同じ学校だった。いや、忘れてはいないよ? ただ一ヶ月ほど入院していたし、箱ライブは事前の協議の末、今回はルイを推すことになり、ついでに握手券もルイに使ったので影が薄かったというか。思考のリソースが杏子に振られていなかった。


「入院していたんだって?」


「ちょっとCIAとKGBと揉めてな」


「ちなみにどんな?」


「とある中東の国で核開発が行われていて、政府は公式に否定したんだが、ロシアからの金の流れが明確で、そこからCIAが情報を逆探知。それがまさか俺のパソコン経由でFBIに拳銃突きつけられて事情説明。大使館であわや拷問とかなっている時にSVRから救出されて。そのままロシアに亡命したけど、今度はロシア派閥で俺を処分するのしないのって議論して。仕方ないので中東国まで逃げてワルサー片手に大立ち回り。核開発の証拠を握って、そのままアメリカへ。大統領から表彰されて、だが英雄のニュースはカヴァーで対応。俺は一か月間入院していましたってことで、莫大な米ドル貰って日常復帰だ」


「で、何してたの?」


 だから中東の核開発がだな。


「そういうのいいから」


「いいだろ?」


「遠慮するって……そう言ってるの。病気? ケガ?」


「どっちかってーとケガ」


 多分。


「なんで連絡くれなかったの?」


「お見舞い来られても困るしな」


 杏子が邪魔とかそういう意味じゃなく、政治的にマズかった。


「ナースさんとエッチなこととか」


「流石にナースさんの退職金を泡沫の夢にする度胸は俺には無い」


「エッチは私としますもんね」


 それもご勘弁なんだが。


「聞くけど……童貞ですよね?」


「ああ、間違いない」


 エッチな夢は結構見ているけど、本番をしたことは無い。


「はぁ。サークラちゃんは可愛かったな」


「おかげで周囲の視線がちょっと」


「私だけ知っていればよかったのに」


 そのために策謀したんだしな。


「またやる?」


「やってもいいが。その場合使用不可になるまで汚すからな。お前のパンツ」


「ねぇ。私だけ見て。他の女子と話さないで。そしたら私はマアジに全部上げるから」


「ちなみに全部って?」


「『※自主規制』と『※放禁用語』と『※爆弾発言』と……」


 全部いらんわ。と言いたいが……実際は超欲しい。金髪碧眼の美少女だ。欧州系の髪色に大和撫子の顔を持っている杏子はガチで超かわいい。ハッキリ言って、俺は今でも杏子に対する可愛さの基準だけは下げていない。推しではないけどな!


「ちなみに今ノーパンだって言ったら興奮します?」


「超する」


「そ、そっか。……その……見たい?」


「モザイクありなら」


「どういう意味?」


「直視すると意外とグロいとネットに書いてあった」


「見たことないくせに」


「……………………」


 当たり前だ。童貞が見たことあるわけないだろ。だから童貞やってんだよ。と言えれば良かったんだがなぁ。


「え? もしかして見たことあるの?」


「ないですが」


 あっさりと嘘を吐く。


「じゃあ微妙なタイミングで黙らないでよ。心臓に悪い……」


「パンツは履いとけよ」


「階段上ると事故になるしね」


 そもそもそういう話を学食でするなという問題ではあるのだが。


「ここでキスでもする?」


「絶対イヤ」


「私はいいんですけど」


「俺の推しはもうお前じゃない」


「それだけどさ。考え直さない? 私、佐倉くんに推されないとテンション上がらなくて」


「給料分くらいは頑張ってくれ」


「別にお金には困ってないけど」


 中々個性的なデザインの家に住んでいたしな。親は稼いでいるのかもしれない。あんまり他人の家のことは言えんのだが。


「代償を与えるから。それでトントン」


「もうお前に焦がれていない」


「じゃあ今の推しは?」


「臼井幸」


「…………誰?」


「アイドル声優。声が超可愛いの」


「私より?」


「声だけで言ったら敵う奴そういないぞ」


「ねえ。ジョークはいいからさ。本当に私を推して? それだけで私は頑張れるから」


「ファンは俺以外にもいるだろ」


 オメガターカイトには多くのファンがいる。仮にも国民的な人気を博しているグループだ。杏子のファンも一般的なアイドルとしては多い方だろう。俺は違うけど。


「じゃあ何したら推しにしてくれる」


「諦めるということを知らんのか」


「だって佐倉くんに褒めてもらうためにアイドルやっている感あるし」


 それはまたニッチな動機で。


「別に嫌いになったわけじゃないぞ」


「握手会。ルイの列に並んでいたでしょ?」


「アレは辛かった」


 三十秒の握手のために三十五分待つって何だ。それでもルイが可愛いので我慢できた感はある。


「ルイ。可愛いもんね」


「まぁオメガターカイトのセンターだからな」


「私より可愛い?」


「もちろん」


「もちろんなんだ」


 ていうか付き合ってるし。自分の彼女は世界一可愛いってカップルの常識じゃないのか?


「浮気された女の人ってこんな気分なのかな?」


「具体性を伴うと?」


「毒入りスープで一緒にスーサイドしたり」


「そのネタ古いぞ」


 通じる俺もなんだかなぁ。


「でも私じゃない彼女が出来たら言ってね。刺すから」


 それで報告しようと思われている俺への信頼が凄い。俺を刺すんなら言ってもいいが。


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