第88話:まるで成長していない……
お盆休みに読んでくださればと、更新再開しまーす
「私が君を♪」
「君が私を♪」
「「「「「愛しているから愛してるッッ♪」」」」」
秋も深まるこの季節。それでもドルオタに冬など無く。
「はーいはいはい! はいはいはい!」
俺はアイドルのライブでサイリウムを振ってオタ芸を打っていた。
全国的な知名度を得ている、今一番勢いのアイドルは? というテーゼで議論した場合、オメガターカイトは最有力候補に挙がるだろう。センターの黒岩ルイはもはやアイドルという枠組みを超えてスターになっていた。所属こそオメガターカイトだが、個人でコマーシャルの仕事やグラビアにも出ているし、ネットで動画を上げれば何百万再生。向かうところ敵なしの体を成している。その両隣がサブセンターで、うち一人を俺は知っている。古内院タマモ。まぁなんというかファンも付くよなと言った有様の美少女で。バインバイン揺れている巨乳ならぬ爆乳の躍動はちょっと男子には刺激が強い。さらにその隣に片中サヤカと八百イユリがパフォーマンスをしており、そうして箱ライブは大成功を収めた。箱は二百人くらいだが、そのライブチケットも価格高騰、転売ヤーの暗躍、ダフ屋が目をつけたりと違法オンパレードで。俺は正規ルートで手に入れたが、それだって特殊な事情であって。そしてライブ終わりに握手会。俺は握手券を提示して、黒岩ルイの列に並んだ。さすがにセンターアイドルだけあって凄い人気だ。一人三十秒の時間を与えられても七十人並べば三十五分かかる計算。もういっそ片中サヤカの列に並ぶか、とも思ったが、あっちはあっちで人気だ。じゃあ古内院タマモは、と思うとこっちも長蛇の列。じゃあ八百イユリに……と思ったが、ルイと目が合った。
「…………」←ルイ
ニコッと微笑まれた。列から離れるわけねーよな、という訓戒を聞いた気がするのだが、どう考えても誤聴だろう……と信じたい。だがこのまま帰って皮肉を言われるのも困るので、俺は黒岩ルイの列に並んだ。三十五分スマホのゲームで時間を潰し、なんとか握手の面会。
「黒岩ルイさん!」
「はい。お久しぶりだぞ。佐倉くん」
「会えて感激です! 握手してください!」
「もちろんだぞ。これからもボクを推してね?」
「うっす!」
そうして黒岩ルイが如何に可愛いか。箱ライブで輝いていた。ソレを語りつくしていると時間が来た。
「はい。御時間でーす」
スタッフが俺を粗大ゴミのように押し込んで黒岩ルイと離しにかかる。そうしてライブ会場を出て、ちょっと寒くなった季節の風を感じながら、俺は帰路につく。今日は一人飯だ。アイツらは各自で食ってくるだろうし。
「適当に店入るか」
なわけで鉄板焼きの店に入る。カウンター席が鉄板になっていて、目の前でシェフが調理してくれる奴。野菜。モドリガツオ。フォアグラ。それからブランド牛のステーキ。もちろん俺の調味料のオススメはワサビだ。牛肉にはわさびが一番合う。これは世界の真理と言える。最後に米が出されて、牛と一緒に食べてフィニッシュ。デザートもしっかりと食べた。結構な値段はしたが、まぁ今更。
「はぁ。可愛かったなぁ。ルイの奴」
実際にパフォーマンスの面で言えば素人目には不備が無かった。今、オメガターカイトは内部に爆弾を抱えているのだが、さすがにそれをファンに気取られるほど甘い業界でもないらしい。メンバー内の不和は不和として、ライブは最高のパフォーマンスをする。
踊っているルイはとても躍動的で可愛く、ちょっとパンツ見えんかなと思ったのも事実で。鉄板焼きでお腹いっぱいになって帰る。俺の家は都心の駅近セキュリティバリ高の高級物件で、ぶっちゃけエントランスのセキュリティが高度過ぎて家に鍵をかけなくても心配ないレベル。そのセキュリティを突破して十三階の二号室に入る。
「マアジ~ッ!」
で、玄関を開けた瞬間、女の子が俺に抱き着いた。紫色に反射する黒髪の美少女は、偏に言って傾国の逸材で、彼女が死ねば後追い自殺する男は五人は出る。なお胸の大きさはDカップらしいのだが、最近それよりも大きくなっているのでは、と俺に思わせる程度には戦闘力が上がっており。もしかしてEカップになっていらっしゃって? もはや爆乳の領域に足を突っ込んでいるのでは。
「ボクのパフォーマンスどうだった!?」
「超よかった」
グッと俺はサムズアップ。ついでにポンポンと頭を叩く。
「えへー。マアジ。好きぃ」
マアジというのが俺の名前だ。佐倉マアジ。どこにでもいる男子高校生……のはずだったんだがなぁ。
「黒岩ルイの全身全霊の愛を受け止める人だぞ」
そうなのだ。紫に反射する黒髪の美少女。そんなスペックが二人も三人もいるはずなく。オメガターカイトのセンターアイドル黒岩ルイ。そいつは俺のマンションの部屋の隣に住んでおり、俺とも交流がある。ついでに言えば恋人の関係だ。一応俺は黒岩ルイに告白して受諾され、正式に付き合っている。アイドルと付き合っていいのかって? まったく良くは無いんだが、俺がルイを大好きだという気持ちを抑えられないのも事実で。
「ねぇえ? マアジ……」
この猫なで声は、甘えたい時の信号だ。
「ライブの反省会はしてきたんだろ?」
「もちろん」
「タマモは?」
「部屋に戻ってるよー」
古内院タマモ。彼女は俺の部屋の隣にサヤカと一緒に住んでいる。ついでに十三回の四号室には八百イユリがいたりする。どういう状況かって? 俺が聞きてえわ。
「もうお風呂も入ってるよ?」
「あー、一緒に入るか?」
「いい……の?」
「ただしその後何されても文句言うなよ」
「言わないよぅ。それってマアジがボクを求めてくれてるってことだぞ」
「ッッん」
俺はたまらずルイにキスをした。それに対して目を見開いて驚き、だが俺のキスを受け入れて紫の瞳をトロンと蕩けさせるルイ。アイドルとして人気絶頂のコイツが俺の前では恋する乙女に堕ちるのだ。
「マアジ♡ マアジ♡ マアジ♡」
「ルイッ。ルイッ。ルイッ」
互いに腰に腕を回し、唇を貪り合う。オメガターカイトのセンターが俺の恋人。そのことに背徳と性欲と征服欲が混同して俺は一人の雄になる。
「じゃあお風呂いこっか」
「マジで何するか分からんぞ」
「それはボクにもいえるんだぞ」
「せめてもうちょっとアレが大きければな」
「…………ボソボソ(十分な気がするぞ)」
「何か言ったか?」
「いぃぃぃえぇぇぇ。何もぉぉぉ」
嘘をついている時の言い方だが、まぁろくでもないことは確かだ。
「最近ブラジャーもきつくなっているんだよね」
「目に見えて大きくなってるしな」
「わかる?」
「ルイのおっぱいは常に見てるから」
「生で見る?」
「ていうか一緒にお風呂に入っている時点でアウトな気がする。領域展開の必中効果で俺の手はお前のおっぱいを揉み放題。領域で付与された性欲は必ず当たる」
「じゃあ後は受精するだけだね」
ごめんなさい。それだけはご勘弁を。




