第86話:そして世界は巡りくる
「ふむ」
入院から一か月後。俺は左手を握って開いて、感覚を確かめる。丸っと再生した左腕は今のところ支障はない。看護師の皆さんも「コイツは一体何なんだ」と化け物でも見るような目を向けてくる。そりゃ肩から切り落とされた腕が生えてくれば、医学的には意味不明だろうが。
「じゃあ。お世話になりました」
お医者様は佐倉財閥と懇意にしているお人なので、こっちの事情も組んでくれる。俺の腕が再生したことは流石に説明を要したが。腕が生えてもすぐ退院ではなかったが、経過観察をして、大丈夫だろうということで俺は入院一ヶ月で退院する。
病院は今年で既に二度お世話になっている。あんまり行きたくはないのだが、それもこれもオメガターカイトが悪い。いや、悪くはないのだが。電車に乗って、我が家まで帰る。駅近のマンションなので、スイスイ進む。
「ただいまー」
で、我が家の玄関を開けると、
「「「「お帰りなさいませ。ご主人様」」」」
メイド服を着た四人のアイドルが俺を迎えてくれた。ただしミニスカで胸元が露出ギリギリで、とてもエッチなジョーク衣装。
「もう無理しちゃダメだぞ。ご主人様」
「…………えと。……胸揉みますか?」
「サヤポンはおにーさんに全てを捧げるにゃ。エッチな命令いっぱい聞くにゃーよ」
「マアジお姉様。拙の忠誠を捧げるデス」
その四人のエロメイドは、首に首輪をつけて、そのリードを俺に捧げていた。握れ、ということらしい。俺はルイの首輪のリードを握って、グイッと自分の方へと引っ張る。
「あん♡」
そうして引っ張られたルイが俺に傾いて。その唇を俺は奪った。
「ん……」
唇を重ねて、そうしてキスを味わう。
「マアジ……マアジ……」
その俺のキスに目をトロンとさせるルイ。
「…………ルイばっかりズルいです」
「おにーさん。皆平等に」
「拙は最後でもいいデスよ? ちゃんと愛してくださるなら」
「じゃあイユリはサヤカとキスしろ」
「マジデスか!」
そのイユリはと言えば、サヤカの唇を標的にして、爛々と目を輝かせている。
「ちょ。ま。イユリお姉ちゃん? 目が怖いんにゃけど……」
「よいではないかよいではないか」
やはり女子とキスするのはイユリにとって興奮するらしい。
「で、こっちも」
俺はタマモのリードを握って、こっちに引っ張る。
「…………あ」
贅沢にもルイを抱きかかえたまま、タマモも腕の中に入れる。
「好きだ。大好きだ。ルイとタマモが大好きだ」
「マアジ……♡」
「…………マアジ♡」
だから、ルイとタマモにも好きでいて欲しい……と考えるのは傲慢だと知っていて。
「傲慢だぞ」
「……傲慢ですね」
だよなぁ。
「でもそれくらいがマアジらしいかも」
「…………仮にマアジがあたしたちを好きでなくても、あたしたちは無条件にマアジが好きですよ」
だから軽やかなキスをされた。チュッとルイから。タマモから。
「…………でも腕を落とすのはやめてください。……アレは流石に肝が冷えます」
「といっても聞かないんだぞ?」
「オメガターカイトが危ない目に合わない限り、俺は俺を保証する」
「つまりボクたちに危険が差し迫ったら」
「普通に助ける。佐倉財閥の全てを使って」
「それでサヤカを?」
で、俺とルイとタマモはチラリとサヤカを見やる。
「ちょちょちょ! イユリお姉ちゃん目が怖い!」
「キスしますデスよ! サヤカちゃん!」
「落ち着け」
で、俺は今度はイユリのリードを引っ張った。
「ぐぇ」
「お前、女子なら誰でもいいの?」
「可愛い女の子限定! でもオメガターカイトは全員合格デス!」
まぁ実際に可愛いしな。
「あとマアジお姉様は例外」
ありがとうございます。で、危機から逃れたサヤカが俺を見る。
「おにーさん……」
「言ったろ。腕くらい生えてくるって」
その切り取られたはずの左腕……左手で、俺はサヤカの頭をなでる。その俺に感極まってサヤカは抱きしめてくる。
「大好きぃ……おにーさんカッコよすぎるよぅ……」
わはははは。
「じゃあ今夜もやろうね」
「えー。病院では散々やっただろ」
おかげで次の朝のナースさんの目が生温かった。
「いくらでもしていいんだよ? 目指すは想像妊娠かな?」
夢の中でやって、現実で想像妊娠か。嫌なことを言うな。そしてその仮定が現実と地続きというのがさらに怖い。
「マアジ」
「…………マアジ」
その俺を抱きすくめるルイとタマモ。DカップとGカップが、俺の腕に押し付けられる。あばばばば。童貞にはキツイ仕様。
「マアジのアレ。気持ちよかったぞ」
感度数百倍だから誰でもそうだと思うんだが。
「…………好きな人に抱かれるって……こんなにも幸せなことなんですね」
それは俺も思う。ルイとタマモを直接的に感じて、それが幸せだと言い切れる。まぁ夢の中なので正確には直接的ではないのだが。
「あのね。サヤポンのお父さんとお母さんもおにーさんなら嫁に出せるって言ってくれてる」
まさかの家族公認。
「マアジ~」
「…………マアジ」
だからそれは俺のせいか? ジョークみたいなエロメイドの格好をして嫉妬されても、こっちの現実感は追いつかないのだが。特にタマモなんておっぱいが服から零れ落ちそうだ。このまま揉んでしまいたいが、生憎と俺の理性はそれを上まって余りある。
「南無八幡大菩薩」
というわけで第二部終了です!
ここまで読んでくださってありがとうございました!




