第85話:夢であるように
「はー。疲れた」
あの後。俺は日本刀を取り出した若頭によって肩の付け根から腕を斬られた。ちなみに左腕。さすがにそれはルイやタマモにはシャレになっていなかったらしく。一発ビンタされた。その後滅茶苦茶泣かれた。悪いことをした、と俺が思えれば良かったのだが。生憎と気分は爽やかで。既に佐倉コーポレーションは両外建築を子会社に持って、八裂組も手を引いた。借金も完済したし、後は売掛金だけだろう。それだっていつまでも長引かせることはできないし、資金繰りも佐倉コーポレーションが親会社になっているので銀行も強くは言ってこない。サヤカを取り巻く問題は解決したと言えるだろう。
「本当に腕がないんだな」
俺の体内にあるミストルテインは人間に植物の再生力を付与することを目的に作られており、つまり枝を切られても生えてくる植物のように再生すれば……いいなぁって感じ。もちろんサヨリ姉は暴走した。俺の腕を斬った八裂組の若頭はおそらくだが来年の初日の出は見れないだろう。アイツは最も怒らせてはいけない存在を怒らせた。一応サヨリ姉にも理性はあるからキツツキ商会が支払うまでは行動を起こさないと思うが、それも俺の楽観論であることは明記しておく。
「……おにーさん」
俺に延々説教して、プリプリ怒りながら私立病院の病室から出ていったルイとタマモ。彼女らの説教は身に染みているのだが、実際のところこれからもそういうことが起こったら、そのたびに俺は火中の栗を拾うのだろう。オメガターカイトのためならば安いものだと俺は思っている。いつの間にか俺にとってオメガターカイトは箱推しになっているらしかった。そのぐったりした俺の見舞いに来たのはサヤカだった。ルイとタマモは帰っている。イユリにはまだ会っていないが、まぁアレも中々な。
「あの……腕」
「ああ、大丈夫。生えてくるから」
「そんなわけないじゃん」
「じゃあ一月後にもう一回言ってくれ。その時に俺の腕が生えていなかったら、ビンタでも何でもしてくれていいから」
「なんでおにーさんはそうなの?」
「何が?」
「あっさり暴力団の屋敷にカチコミして、サヤポンを助けて、そのために腕を失って。なにがそんなにおにーさんの背中を押すの?」
「オメガターカイトへの熱だな」
「嘘」
「嘘なもんか。お前らが百パーセントのパフォーマンスを発揮するためなら、俺は世界すら敵に回すぞ」
「なんでぇ……ぇぇ……なんでぇぇ……」
ボロボロとサヤカは泣いた。俺に対する罪悪感が増しているのだろう。気持ちはわかる。仮に俺の問題でルイやタマモが腕を失ったら俺も同じように思う。とはいえ、この義侠心を改める気もないんだがな!
「見捨てればよかったじゃん!」
「オメガターカイト相手にそれが出来れば、俺はもうちょっと小器用に生きていける」
マジで中間テストはどうしよう。さすがに片手で受けるわけにもいかんし。テレワークで授業を受けて、一か月後に腕が生えたらその後受講する形かね。やはりというか腕の再生がバレると社会問題になるので、今の腕を切り取られたことを在校生に見せるわけにはいかんし。っていうか部位欠損が再生するという事実を、世間に公表するわけにはいかんのだ。
個人レベルならともあれ、社会認知としてミストルテインを発表するわけにもいかんので。
「さてそうすると……」
私立の病院で至れり尽くせりの待遇を受ける。さすがに佐倉財閥の子息ともなれば、政治的にもかなりのモノで、入院しているだけでも医者が御機嫌伺いをするレベル。俺的には自然に接してほしいのだが、まぁ仮に俺に何かあったら病院の責任者の首が飛ぶ。役職解任とかそういうレベルではなく、物理的に。とはいえ俺に責任を問う気はなく。とにかく腕を生やすために肉を食いたいとだけ言っておいた。そりゃ病院食に肉はちょっとアレだが、身体の構造上たんぱく質を摂らないと失った腕が再生しないわけで。貪るように飯を食って、それから寝る。
睡眠。
浮遊感。
例えるならそんな感覚。意識が薄れているような、それでいて明確の様な。曖昧模糊とした精神の中で俺が目を覚ますと、マンションの俺の寝室にいた。記憶が繋がっていない。そもそも腕も治っていないのにこの部屋にいるはずもなく。とすると。
「はぁい。おにーさん♪」
「えと。マアジ……だぞ」
「…………ご機嫌いかがでしょう」
下着姿のサヤカ、ルイ、タマモがいた。ベッドで目を覚ますと俺は彼女らと一緒にベッドに寝ていた。俺の胸板におっぱいを押し付けて、蠱惑的な瞳で俺を見る三人。もはやスケスケのネグリジェを着て、寝ている俺に寄り添う女子三人は、例えるなら娼婦のソレで。コイツ等がアイドルだってんだから世も末というか。俺が世紀末覇者というか。いっそのこと無想転生でもするか?
本当に俺は何をしているんだ。
「あー」
サキュバスの異能。俺にエッチな夢を見せるのは、サヤカの十八番であったのだ。
「夢の中ならいいにゃーよ?」
果たしてそれがいい事なのかは、議論の余地があり。ていうか現実の俺は今病院のベッドで寝ているんだよな。ここで果てた場合、病衣の下のアレが大変なことにならないか?
「まぁまぁ。躊躇うことも多々でしょうけども」
「…………さすがにマアジとこれ以上は我慢できません」
「サヤポンもおにーさんにベタ惚れにゃーよ。本当にカッコいい。冗談じゃなくサヤポンの王子様」
とは言われても。
ネグリジェ姿で、俺に寄り添い、発情した瞳で俺を見る。これはもう逃げられんな。覚悟を決めなければならないらしい。三人ともに既にやる気のようだ。ルイもタマモもサヤカも俺の肉体に自分の肉体を擦り当てて、胸や股を押し付けてくる。その身体がホットになっており、俺が感じる温度では驚く程度に熱かった。女の子の身体ってこんなに熱くなるのか。
なのにそれでも足りないのか。俺の唇を三人が交互に貪ってきた。
「マアジ♡ もうボク我慢できないぞ♡ んちゅ♡ チュパ♡ んぅ♡」
「…………マアジ♡ ……マアジ♡ ……マアジ♡」
「おにーさん♡ もうサヤポンは濡れているにゃーよ♡」
「「「ほら。誰のから味わう?」」」
寄り添うように俺の身体にしなだれかかって、俺の身体と自分の身体を擦って、それからキスをしてくる三人。そしてある程度俺の性欲を刺激すると、その俺のアレを見てゴクリと唾を飲む。見るのは初めてではないにしても、これからやることを考えて、彼女らが俺のアレをどう見ているのかは、まぁ察せられて。
「は、入るかな?」
「…………た、多分」
「サヤポンは少し自信にゃい」
いうて然程でもないだろ。
だが三人とも既に覚悟は決まっているのか。俺のアレが苦しそうであることを察して、事態を推移させる。
「ほらほら」
「…………えと」
「好きな順番でいいにゃーよ?」
ベッドの上。パンツを履いたまま、三人は四つん這いになって俺にお尻を向けてくる。その巨大な果実のようなお尻がパンツ越しに三つ並んで、発情した女鹿のように尻を振ってきた。まるで男に貫かれるのを待ち焦がれるように。
アイドルが三人並んで、俺に尻を突き出す様は、まるで夢のよう……というか夢だったな。
「パンツ脱いだ方がいいぞ? それともマアジがずり落とす?」
「…………ちょこっと横にズラして……というのもアリですね」
「うーん。お尻のムチムチさだとやっぱりルイお姉ちゃんやタマモお姉ちゃんには勝てにゃいにゃー」
とはいってもサヤカのお尻も十分魅力的なんだが。四つん這いで三つの尻が並んでいる。それに俺のアレを挿入していいらしい。
ルイとタマモなんていやらしく四つん這いになっているから、胸部から零れるおっぱいがタユンタユンと揺れている。これから起こる衝撃で、それはさらに揺れることになるだろう。俺がアレを叩きつければ、その衝撃は女体の全身を揺るがす。
「ほら早く。なんなら前にやった感度数百倍にしてもいいぞ?」
ルイがお尻フリフリ。パンツ越しとはいえ肉厚なアレが綺麗なラインを描いている。ついでにお尻と同じく胸も揺れる。ムチムチの全身で男の性欲を挑発する至高の肢体。スラリとした身体なのに、特徴的なところは肉がついていて、もはやエッッッの具現と言っていい。
「…………あれは本当に衝撃でした。……いつもあんな感度で?」
接触感度が人より鈍いからな。俺は。まぁ触覚が植物並みだからしょうがないんだが。
タマモに至っては、まるでスイカのような胸がバルンバルン揺れている。四つん這いでやるとしたら、つまり俺が覆いかぶさる形になるので、背中越しに抱きしめて、タマモの胸を揉み放題という。
腕が二つ無いのが悔やまれる。
「お・に・い・さ・ん? もう焦らさないで? 据え膳食わぬは男の恥だにゃ」
ロリ体形のサヤカも、二人とは別の意味で魅力的だ。引き絞られた身体は、味わい甲斐がルイやタマモとは別の意味で溢れている。
「じゃあ感度数百倍で」
「おっ! おほぉぉぉおおおぉぉぉぉ! あづいぃ! おまだがあづぃぃいいい!」
「濡れぢゃうぅぅぅ! こんなのもう我慢できないぃぃぃぃ!」
「挿入れでぇぇええぇ! 一秒だって待でないぃぃぃ!」
仕方ない。仕方ないのだ。しょうがないので……俺は熱唱した。
この情熱を歌にしないと、俺はとてもではないが理性を保てない。
クッセツなんてくだらねぇ! 俺の歌を聞けぇ!
この推しの喘ぐ声を聞け!
PLAYパン! PLAYパン! パン! パン! パン! PLAYパン!
「「「あぁん♡ あ、あ、あ、あん♡ 激しすぎるよぅ♡」」」
チキュウさえ穿つ矛となれ!
PLAYパン! PLAYパン! パン! パン! パン! PLAYパン!
「「「おほぉ♡ マアジので満たされりゅぅ♡ おっきぃ♡」」」
紳士の眼差しで貫け!
「「「んひぃぃぃぃ♡ お願いぃ♡ もっとぉ♡ もっとちょうらいぃぃ♡」」」
いや、歌っているだけですよ?
ルイもタマモもサヤカも俺の歌に酔いしれてるだけですよ?
もちろん次の日の看護師さんの目が生温かった。




