第80話:ミスコン
「はーい! 始まりました! うちの高校一番の美人を決めるミスコン! それぞれが予算内できらびやかな衣装を着て、プレゼンをするこの舞台。はたしてミスコンのトロフィーは誰の手に! 解説の落合さん。今日のこの舞台をどう見ます!」
「まぁ角夢さんのぶっちぎり優勝かなぁ」
「はーい。身も蓋もない意見いただきましたー。それでは第一番。飯崎祥子さん。カモーン!」
そうして学校の肯定に舞台が作られて、その舞台を歩いて、マイク片手に何かアピール。そして舞台裏へ戻る。そんなことを繰り返して、この学校のミスコンを決めようって腹らしい。で、なんで俺がそのミスコンに参加しているんだ。
「いけるって! 君なら角夢さんの対抗馬になれる!」
「然程可愛くないぞ」
「大丈夫。ミスコン運営委員会会長の僕が太鼓判を押す!」
大丈夫かコイツ? だが既にこういう事に鼻の利くサヨリ姉は新しいメイク道具を持って俺の隣に立っており、イユリは俺のメイド服を整えている。マジでガチで俺をミスコンに出す気らしい。
「こういう時は大人っぽくシックに纏めて……」
「はぁ可愛いデスお姉様。おみ足ペロペロ~」
とりあえずイユリが役に立たないことは分かった。とはいえアイドルとしての立場から、俺の助言はしてくれるらしい。背筋を伸ばす。歩くときはリズムを刻んで。あとは萌え萌えにパフォーマンスをすれば男は即オチ二コマデス、とのこと。いや、男を落としても困るんだが。
「三番! 山岸愛さん! おお! これは派手な衣装! 手芸部の意地が感じられます。パフォーマンスは好きなアニソンを歌うということで。アカペラでよろしくお願いします! あ、マイクはアリですよ?」
そうしてミスコンが進んでいく。
一応教室の方の仕事は休憩を挟んで解放されたが、それによって俺がミスコンに出ていれば、つまり休憩なんてあってなきが如し。何してんだろうな俺。
とはいえ可愛らしい女子がミスコンに挑んでいるだけあって、学内ヒエラルキーは上位の存在が出ている。俺なんて最底辺の陰キャだぜ? なんでミスコンに登録されてるのよ。
「さあさあやってきました。ミスコンナンバー十番! 毒島香苗さんだー! 愛らしいギャルにまとめた服装。渋谷を歩いていそうな愛らしさに目を奪われるー!」
既に勝ったと毒島さんは思っているのだろう。ただソレが楽観論に過ぎないわけで。
「なんと彼女! 今まで文化祭準備の間中! 角夢杏子をイジメていたらしいです!」
「…………え?」
そんなマイクパフォーマンスが出て、毒島さんが硬直する。
「陰口をたたき、陰謀に貶めていたようだ! なんでもつっかえ棒を使ってトイレに閉じ込めたこともある様子!」
「ちょ! 待ってよ! なんでうちのマイクパフォーマンスが!」
『わかるわー。アイドルだから何でも許されるみたいな空気あるよねー』『オメガターカイトだからアゲアゲなんじゃないの?』『だからってさぁ。学校でも我が物顔は違わない?』『ちょっと自重してほしいよね』『ていうか実は角夢さん可愛くなくね?』『わかるわー。アイドルだから評価されているだけっしょー。実はよく見るとそんなでもないよねー』『あーやだやだ。アイドルのレッテル張って男子をいいように使ってるんでしょ? それってもうビッチじゃん』『アイドル失格だよ』『だから思い知って欲しいよね。明日切り裂かれた衣装見て何を思うかな?』『ウケるー。マジ自己責任~』
そんな録音された毒島とその取り巻きの録音された会話が垂れ流される。
「ここまでせんでも」
こういう嫌がらせは俺の好むところではなかったが、サヨリ姉はやるときは徹底的にやる。俺としても脅威を排除できればいいので、思うところはあるが、これが効率のいい排除の仕方だと言われると、反論の言葉は出てこない。
「なんという陰湿ー! なんでも家庭科室に忍び込んで角夢杏子の衣装をズタズタに切り裂いたりもしたらしい! その映像がしっかり残っていて、今教師陣で精査されている模様です! なんというプレゼンだー! これほど相手の興味を引くプレゼンが過去のミスコンにあっただろうか!」
まぁないよな。
「ちょっと! 何この辱め! そもそも証拠あんの!」
舞台の上から文句をつける毒島さん。
「おおーっとぉ! ついには解説人に牙を剥く! もしかしたら我々解説人のロッカーにもイチゴミルクがぶちまけられるかー!」
酷い辱めだ。既に周囲のミスコンを見ている生徒の目は引いている。いくら角夢杏子がライバルだからって「そこまでやるか?」……みたいな。
「さあプレゼン時間は終わった! 毒島香苗さん! 舞台から降りてくださーい!」
すでに対抗する意識まで持っていかれたのか。そうして憔悴した毒島さんはフラフラとミスコンを終えた。
「さあさあ盛り上がってきたミスコン! 最後。ナンバー十二。このミスコンの再優勝候補! 角夢杏子だー!」
「どうもでーす!」
で、愛らしいピンクのセーラー服を身に纏って、杏子は舞台に現れた。金髪碧眼の美少女。ヨーロッパとかでよく見る奴。
「じゃあプレゼンしてもらおう! 角夢杏子さん! アナタの魅力を語ってください!」
「アイドルやってまーす! 皆さんオメガターカイトをよろしく! 今度ニューシングルを出すので買ってくださればこれ幸い! 握手会で待っていますから!」
よし。絶対行く。ただ誰の列に並ぶのかが問題なんだよなー。
「じゃ、ちょっと歌おうかな。もちろんオメガターカイトって言えばこの曲! 可愛いテイル! 角夢杏子の独唱バージョン!」
軽やかに歌われるオメガターカイトのメインナンバー。それを聞いて、ミスコンを見に来ていた生徒らは大盛り上がり。一応事務所には許可を取っているらしく、歌うことには問題がない。ここで軽やかに杏子が歌えば、オメガターカイトの印象も上向くだろう。
「――♪ ――♪ ――♪ ……ありがとうございました!」
そうして杏子のプレゼンが終わった。
「さて、これで十二人の学内最萌女子を決めるミスコンは終わったわけですが……なんとなんとなんと! 十三番目! イスカリオテのユダ! 追加でもう一人サプライズで追加だー! コイツは既にデータがない。このミスコンの舞台に立つ何の準備もしていないとのこと! それでいいのか! それでいいんだろうな! 飛び入り参加者! この人は本当に男の子なのか! 課題を始めてから学内の二割の生徒から指名を受けた萌え萌えメイドさん! サークラちゃんだぁ!」
「どもー。サークラでーす」
「サークラちゃーん!」「萌え萌えデス!」
サヨリ姉とイユリがうるさい。
「そうですねー。飛び入り参加なのでパフォーマンスとか用意していませんし」
少し考えて、俺はそれを思いつく。
「では、文化祭で買い食いをしている皆様方! たこ焼きとかクレープとか焼きそばとかリンゴ飴でもいいんですけど。高くかざしてください。もちろん任意ですけどね」
言われて全員が掲げる。
「じゃあ! 行きますよー? 私に続いて復唱してください!」
そして俺はキュルルンと愛らしいポーズをとる。
「美味しくなーれ♡」「「「「「美味しくなーれ♡」」」」」
「美味しくなーれ♡」「「「「「美味しくなーれ♡」」」」」
「ハルルンハキュン! 萌え萌えキュン! ご主人様のご飯よ美味しくなーれ!」
そうして、俺のプレゼンは終わった。俺の美味しくなる呪文を受けたたこ焼きやら焼きそばはめちゃウマの領域に達したらしく、その味は伝説になった。ついでに俺も伝説になった。
「それじゃあミスコンの投票を始めます! 皆さん一番可愛かったと思う女子に投票してくださーい」
さて、こうして文化祭は終わったわけですけども。残っている問題が一つ。
はぁ。気が重い。




